アンダーカバー(UNDERCOVER)の2025年春夏メンズコレクションが、2024年6月19日(水)、フランスのパリにて発表された。
バンド「Glass Beams」の映像を背景に行われた、今季のアンダーカバー。そのテーマは「LOST CLOUD」であった。雲とは、極め付きの曖昧な、両義的な存在だ。空に浮かんでいるときに形の定まらぬ雲は、その位置を明確に捉えることができない。その曖昧さゆえ、もし伝統的な西洋絵画を思い起こすのならば、合理的な空間の中でキリストが浮遊する姿を表すときにその周りを白い雲で囲むことがある──雲とは、どこか境界を溶解せしめるものなのだ。
この「雲」という不定形な対象に誘われて今季のアンダーカバーを理解するのならば、身体と外界を克明に分離する衣服というものを再考し、もっと連続的な、流動的な存在として捉え直しているとでも言うことができるだろう。薄く軽やかなファブリックを用いたウェアの数々は、身体を覆うか覆わないか、ふわりと流れるようなシルエットを描いている。
たとえば、アンコン仕立てのジャケットは、ショルダーをドロップさせたリラクシングなシルエット。その軽快な素材感ゆえ、ほとんどカーディガンのような佇まいを示している。また、ロング丈のフード付きコート、シャツなど、風をはらんでは波打ち、あえて明確なラインを描きだすことはない。さらに、そもそも曖昧さを要素とするカモフラージュ柄も、シースルーによってより半透明なファブリックに近付く。
ディテールにおいても、境界としての衣服という捉え方を問い直す要素を見て取ることができる。ジャケットのスリーブはセパレート仕様に。あるいは、ボディにスリットを設けたり、ファスナーをあしらったり、あるいは経年変化を帯びたようなホールを散りばめたりと、外側と内側が相互に行き交う、可塑的な面を作りだしている。
雲の曖昧さを表現するのが、グラフィックであろう。柔らかく波打つシャツなどには、雲が広がるような総柄を。あるいは、人型を淡く、拡散させたかのような曖昧なグラデーションを。今、背景で演奏されているGlass Beamsを思い起こすのならば、マスクを着けたその姿は、アイデンティティを不確定にするものである。翻って今季のアンダーカバーにおいても、何かパーソナリティを示すものとされる衣服というものを脱臼し、溶け入らせる、流動的な存在を志向しているのかもしれない。