ミュベール(MUVEIL)の2025年春夏コレクションが発表された。

デレク・ジャーマンと「プロスペクト コテージ」に着想するユートピア

20世紀に活躍したイギリスの映像作家、デレク・ジャーマン。不治の病とされた感染病を患ってしまった彼は、イギリス南東部のタンジネスという原子力発電所のある荒野に、「プロスペクト コテージ(Prospect Cottage)」(期待・展望のコテージ)と名付けた小屋を建てた。小屋の周囲には花々を植え、流れ着いた廃材や流木を用いて造園を手掛けた。独自の美的感覚で作り上げた庭や小屋は、まさに彼と仲間にとって、理想的な王国であった。

今季のミュベールは、そんな「プロスペクト コテージ」が着想源。最果ての地ともいえる、殺伐とした環境でありながらも、草花は逞しく育ち、彼はささやかに、それでいて豊かに生活を営んだ。そこから感じられるユートピアを、ブランドらしく解釈し、コレクションを通じて表現していく。

アクティブなワードローブをエレガントに

コレクションでは、ガーデニングを行っていた彼のライフスタイルにならい、アクティブなワードローブをブランドらしくエレガントでロマンティックな表情に昇華。トラックパンツは、結んだリボンを連ねたレーステープでサイドラインを表現することで、スポーティーなアイテムにガーリーな一面をプラスした。

“タンジネスの浜”着想オリジナルプリント

ワンピースを彩るカラフルなオリジナルプリントも印象的。タンジネスの浜をイメージし、石に見立てたハートやマーブルのパターンを散りばめている。シャツワンピースは、ボタンもハート型に仕上げており、ウェア全体にハッピーなオーラを纏わせた。

リボンを用いた独特のパターンメイキング

タンジネスに流れ着いた廃材をオブジェにアップデートした「プロスペクト コテージ」にリスペクトを表して、パターンメイキングによるリボンノットシリーズを製作。既にある何かから、新しいものを作り出す試みとして生まれたものだ。形を決めてパターンを作り、リボンで結ぶ位置を決めてぎゅっと生地を詰めたような、独特のシルエットになるよう計算している。中でもスカートは、自身でリボンを結び、ボリューム感を調整できるアシンメトリーなシルエットがポイントだ。

ニワトコ・バレリアン・アリウムなど花刺繍

彼が育てていたニワトコ・バレリアン・アリウム、カリフォルニアポピーの花々は、刺繍となってウェア上を彩る。たとえば、ねじれたようなデザインのカラフルな樹脂製ボタンが目を惹くカーディガン。フロントに、花やシャワーの刺繍を施すことで、花々に水やりをしているかのような情景を描き出した。

白鳥型バッグなどアクセサリーも

デレク・ジャーマンの映画作品に着想を得た、白鳥モチーフのアイテムも散見された。大胆に白鳥の姿を描いたプリントTシャツと、白鳥型のミニバッグがラインナップする。特にミニバッグは、湖に浮かぶ白鳥そのものな、ユーモアあふれるビジュアルとなっている。