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カナコ サカイ 2025年春夏コレクション - 〈うつし〉の身振り

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カナコ サカイ(KANAKO SAKAI)の2025年春夏コレクションが発表された。

平安は江戸に、江戸は現代に──

カナコ サカイ 2025年春夏コレクション - 〈うつし〉の身振り|写真23

非西洋人である日本人が洋服を作るとは、どういうことなのだろう?──カナコ サカイの服作りには、こうした問題意識が底流しているように思われる。その探求のよすがとなるのが、日本に育まれてきた伝統と文化にほかならない。ただしその姿勢は、異国情緒あふれた「日本的」な衣服を作る、内面化されたオリエンタリズムとは異なる。むしろ、西洋で培われた洋服というものを、日本という視点から内在的に問い直す身振りにほかならないだろう。

カナコ サカイ 2025年春夏コレクション - 〈うつし〉の身振り|写真18

こうしたなか、今季のカナコ サカイが目を向けたのが、中国からの強い影響から離れ、いわゆる国風文化が花開いた平安時代であり、より直接的には、かつての王朝文化を描きだした江戸時代である。平安時代には、紫式部の『源氏物語』に代表される優美な文化が育まれることになったが、江戸時代の人々は、平安時代の雅やかな文化に憧憬の念を抱き、当時の風俗や文学を積極的に造形化したのだ。そこには、印刷技術の普及などを背景に、平安文学の写本や解説書などが広まったことが関係している。

カナコ サカイ 2025年春夏コレクション - 〈うつし〉の身振り|写真15

今季、日本の造形を「直接的」にモチーフとしたのが、江戸絵画をプリントしたウェアである。シンプルなフォルムのTシャツやワンピースには、岩佐派による《源氏物語図屏風》を。スパンコールきらめくトレンチコートには、優れた36人の歌人を描いた野探幽筆《新三十六歌仙図帖》のうち「藤原俊成女」を、もともとの色彩感を奪ってきわめてフラットにプリントしているのだ。

カナコ サカイ 2025年春夏コレクション - 〈うつし〉の身振り|写真4

江戸絵画をプリントするというのは、文化の軽やかな受容の仕方だといえるだろう。そこには、伝統に目を向けつつも、日本に紡がれてきた文化をより気軽に日常へと取り込めないだろうかという、デザイナー・サカイの考えがある。そしてそれは、江戸文化のひとつの側面とも通ずるだろう。つまり、浮世絵に代表される江戸文化の担い手は、大衆であった。もともと手で1枚ごとに描かれていた浮世絵は、印刷技術が普及するなか、版画による量産へと移行し、多くの民衆が享受しうるものとなったのである。

カナコ サカイ 2025年春夏コレクション - 〈うつし〉の身振り|写真2

プリントによって文化を「うつす=写す」こと。言い換えれば、伝統を重苦しい蓄積のままに担うことではなく、むしろ軽やかに引き受けること。この、ある種の反転の身振りこそ、カナコ サカイの基底にある姿勢であるといえる。そしてそれが、文化をすっかり壊すという粗野な反逆ではなく、それを受けとめつつ内在的に問い直す身振りであるところに、カナコ サカイの服作りの洗練が立ち現れてくるのだ。

カナコ サカイ 2025年春夏コレクション - 〈うつし〉の身振り|写真10

今季のカナコ サカイにおいて、この反転の身振りは具体的に、それぞれの衣服が持つイメージが軽快に「うつろう=移ろう」ところに見てとれよう。テーラードジャケットは、軽やかな素材感とレイヤードしたレース、スカーフが波打つかのようにアシンメトリックな仕立てにより、構築性を流動性にうつし変える。ヘリンボーンのスーツは、ラメ糸のストライプできらめきを添えつつ、ジャケットはバイカー風、パンツは断ち切りに仕上げることで、スーツのフォーマルな佇まいを崩す。トレンチコートはミリタリー感を払拭するレースで仕上げ、あるいはダメージ風のニットには、ラメ糸を編み交ぜることで華やぎをもたらしている。

カナコ サカイ 2025年春夏コレクション - 〈うつし〉の身振り|写真13

カナコ サカイにとって「うつす」こととは、だから、必ずしも原型をそのままに保つことではなく、今に生きる生として呼び起こすことだといえよう。ふと、日本文化にはしばしば、「うつし」の系譜を見出せることに気づく。『源氏物語』を思えば、今季のプリントに用いた《源氏物語図屏風》のように、数々の美術・工芸品の題材となっている。同じく今季のモチーフである藤原俊成女は、『源氏物語』などの内容をふまえる「本歌取り」の技法で数多くの和歌を詠んだ。付言するならば彼女は、文芸評論である『無名草子』を著したとされ、そこで『源氏物語』についても論じている。

カナコ サカイ 2025年春夏コレクション - 〈うつし〉の身振り|写真25

そもそも『源氏物語』は、すぐれて「うつし」の物語であった。光源氏は、亡くなった母の面影を求めて継母の藤壺を慕い、のちに正妻・紫の上となる幼き若紫を初めて目にしたおりには、藤壺と似ているからと目が離せなくなる──そこでは、ある人に別の人の面影が重なってやまない。何より、過ぎ去りし対象の面影を今に認めることとは、そこに類似を見ずにはいられない、見る者の願いがあらわれているのではなかろうか。翻ってカナコ サカイにおいて「うつし」とは、水面に像が映ずるような「写し」であるばかりでなく、過去を現在へと手繰り寄せる「移し」でもあったろう。

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