ムッシャン(mukcyen)の2025年春夏コレクションが発表された。
ムッシャンは、デザイナー・木村由佳が2023年にスタートしたウィメンズブランドだ。日本に生まれ中国で育った木村は、デザイナーズブランドで経験を積んだのち、2024年秋冬シーズンよりコレクションを発表。「服を通して人間の形やフォルムが見えるのが最も美しいと思う。シルエットは隠すためのものではなく、見せるためのものである」と自ら語るように、身体のフォルムをなぞるかのごとくタイトなコレクションを軸に展開している。
「画:covered」と題された今季の着想源となったのが、中国の清代の小説集『聊斎志異』に収められている「画皮」。人間の皮を被って人に化ける妖怪について綴った一篇である。妖怪を覆う薄膜の上には、化けるべき人間の目や鼻、口から、睫毛や眉毛、そして皺にいたるまで、繊細に──しかし、繊細であるだけにいっそうおぞましく──描きだされているのだ。
退廃的なムードを湛えた今季のムッシャンは、妖怪の表皮のこの変容に着想を得ている。シアー素材のトップスやワンピースは、タイトなシルエットに仕上げられ、身体の表皮たる皮膚と、主体の表皮たる衣服との境界を曖昧にするよう。その上には、何者であろうか人物のグラフィックをプリントし、衣服が想像上の表皮であることを仄めかす。
薄く繊細な素材で仕立てたウェアが、概して表皮の曖昧さを示唆するのならば、表皮が区別する外側と内側、その差異を切り開く例が、インサイド・アウトや編み上げの技法だろう。テーラードジャケットを解体したかのようなジレは、通常は裏地に使われようファブリックが艶かしく光沢を帯びる。ベアトップドレスは、大胆な編み上げで仕上げることで、今にも表皮が解体せんとするのを繋ぎとどめる危うさを示している。
ところで、デザイナーの木村は「画皮」について、「気味が悪いけれど、惹きつけられる呪力があるような…」と語っている。これを聞いて彷彿とされるのが、ジークムント・フロイトが論じた「不気味なもの(unheimlich)」、つまり見慣れた対象が一変し、異質に感じられるというものである。
ドイツ語の「unheimlich」は、「馴染みのある」と「隠された」という相反する意味をあわせ持つ「heimlich」から派生している。フロイトにとって「不気味なもの」とは、だから、馴染みのあるものではあるけれども、心のなかで抑圧され、しかしそれが繰り返し回帰してくるために、異質なものとして経験されるのであった。翻ってムッシャンにおいて、「不気味なもの」たる「画皮」を衣服へと転換するとは、装うことで自らを見せる表皮=衣服へと向けられた、魅惑と危うさを体現するものだといえるのかもしれない。