ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)の2025年春夏コレクションが発表された。
今季のジュンヤ ワタナベが試みたのが、「日常」における「アブノーマルな服」であったという。そこで目を向けたのが、日常生活に用いられる工業的・機能的な素材だ。産業デザインで用いられる有機的なフォルム、テクニカルウェアのディテール、機能的なプラスチックパーツなど、インダストリアルな要素を採用しつつ、ドラマティックなフォルムを描きだしてゆく。
実際、コレクションの軸となったドレスの数々を見れば、レースやサテンを各所ごとに切り替えて装飾性を高めるかのようにして、そこにはいわゆる機能的なウェアに用いられる素材がふんだんに用いられていることを見てとることができる。ナイロンやビニール、メッシュ、シルバーシート、反射材ばかりでなく、ショルダーストラップやベルトなどを、あたかもパッチワークのように駆使してウェアを織りなしているのだ。
ここで、たとえばドレスに見られるように、確かにそこではインダストリアルな、メカニカルなパーツが構成要素となっているものの、フォルムの核にあるのは、むしろ優雅さであるといえるだろう。さまざまなパーツを組みあわせたノースリーブドレスは、身体にすっと沿って流れ、裾がはためく。首周りを大きく開いたローブ・デコルテでは、ウエストを絞り、そこからスカートが大きく花開いてゆく。あるいは、メタリックな素材が入り乱れるスカートにおいては、クリノリンスタイルよろしくスカートが大きく膨らんでいることが見てとれる。
無機的とも思えるインダストリアルさから立ち現れる、有機的な造形とでも言えるだろう。それは、いかにもテクニカルな素材から作られたドレスには留まらない。曲線的なファブリックから巧みに立体的な造形を作りだしたドレスやトップスは、どこか艶かしい光沢を帯びており、身体の上で大きく膨らみ、波打つようなフォルムと相まって、光の反射の多彩な表情を引きだしている。
そこではいわば、工業的=合理的という結託関係を解体し、装うことへの欲望を剥き出しにしたフォルムを実現することが目指されているのではなかろうか。インダストリアル=工業的であるとは、近代的な大量生産体制・分業体制を背景に、あるモデルに従って画一的な製品を効率よく生産してゆくことである。そこではしかし、個々の造形の独自性は抑制されざるをえない。こうしたなかでジュンヤ ワタナベは、現代の「日常」を支えている工業的・機能的な素材を駆使しつつも、ドラマティックなフォルムを夢見ることで、現代生活に浸透したデザインの画一性を問い直しているように思われる。