バリー(Bally)の2025年春夏コレクションを紹介。
第一次世界大戦中の1910年代半ば、スイス・チューリッヒで起こったダダイズム芸術運動。戦争に対する抵抗や、それに伴う虚無・ニヒリズムが思想の根底にあり、既成の秩序や常識に対する否定や攻撃、破壊といった思想を指す。様々なスタイルと個性をぶつけ、コラージュやオブジェといった作品を生み出したダダのアーティストたちのように、今季のバリーも型破りなエネルギーをもって再構成・解体を行い、儚くも欲望に溢れたコレクションを作り上げた。
目を惹くのは、レザーコートやスカートなどに取り入れた、コクーンのようなシルエット。チューリッヒ・ダダの中心人物でもあり、1916年にダダイズム宣言を作成したドイツの詩人、フーゴ・バルが着用した凹面の鋼鉄製の衣装にインスパイアされたものだ。
このユニークなシルエットは、ショート丈のレザージャケットやシャツブラウスの袖、トップスのペプラムなどにも影響を与える。袖は丸みを帯び、ペプラムは正面がふわっと盛り上がり、より立体的となっている。中には花びらのようなひだを持つフリル付きトップスも登場し、華やかな印象を与えた。ただ、従来のコートやテーラードのフォルムに真っ向から反していることを考えれば、ダダイズムの反抗的な精神が反映されているともとれるだろう。こうして、原型を捻じ曲げながら、“服遊び”の実践を試みているようだ。
上質なカシミアニットカーディガン、ペプラムトップスやスカートなどを彩るのは、色褪せたバラのプリント。色とりどりに咲き誇るバラをはじめ、オレンジやブルーに彩られたプリントも用いて、コレクションに退廃的な美しさを添えた。
フットウェアやアクセサリーにも目を向けたい。アイコニックなレースアップシューズ「スクリーブ」は、ブロックヒールに昇華されて2025年春夏の新作としてお目見え。またTストラップを配したサンダルは、アッパーに散りばめたスタッズがアクセントとなっている。加えて、存在感のあるベルトのバックルやハンドバッグのストラップは、アンティークの鎚目模様の靴ベラをモチーフにしているのがポイント。どんぐりや鈴、キノコなどと共に散りばめ、自由な遊びを効かせた。