彼女には、一人の人間としても役者としても常に驚かされていました。「静かな川は水が深い」という英語の表現があるのですが、まさにそんな感じですね。
ただ、カメラテストのときは、さすがにルーニーも緊張していたようです。多くのシーンは共演ではなく、それぞれがお互いを考え掘り下げていくという感じだったのですが、遠くから彼女を見ていると、しぐさだとか一つ一つの選択が、非常に興味深いチョイスで。その洗練されたプロセスが、キャラクターを成熟させていくのだと感じていました。最初のコマから最後のコマにかけて、内的壮大な旅を遂げたというのでしょうか。
役者としては、舞台であろうとスクリーンであろうと、常に興味を持っていることは全体像なんです。演技だけでなく、自分が演じるキャラクターが最後にどういう形になるのかが重要。
私はいつでも、美術や衣裳、撮影は誰が手掛けるのか…そういったところから映画に参加していますが、今回はさらに積極的に参加できたかもしれません。そしてより映画を見てもらうための責任を感じていました。
衣裳は、演じる上で大きな手掛かりとなります。こういってしまうと浅く聞こえてしまうかもしれませんが、やはり映画は視覚的なメディアですから、衣装やメイクは、役作りの大きな部分を占めます。
例えば、髪を洗わないで、洋服が破れていて、髭をそれていない…そんな役はやったことないけど(もちろんチャレンジはしてみたいのですが!)、そういうビジュアルがその役を創り上げている部分があるなと思います。
キャロルも同様。ガードルをどうするのか、ブラをどうするのか。どういったシェイプでボディラインにするのか。衣裳デザイナーのサンディ・パウエルとともに考えていきました。それと、そのシーンはどんな心情であるのか、その衣装がどのくらい登場するのかも考えないといけないんです。洋服によって動きが変わってきてしまいますので。例えば、ペンシルスカートなんかは突然走りだすシーンには不適切ですよね。
お互い意見を交換していきました。こうあるべきだと初めてに決めてしまうと、エネルギーが死んでしまうので、問いかけつづけることが映画作りの中で大切であると考えています。
監督のトッド・ヘインズとは『アイム・ノット・ゼア』で共演したのですが、そのときには大きなスクラップブック(イメージボード)をたくさん用意してくれていました。色々な画像やアルバムのカバー、記事、写真などが貼り付いていて、作品の雰囲気がわかります。
今回は、1950年代のニューヨークを撮影した作品が共有され、映画『恋人たちとキャンディ』と『小さな逃亡者』の2作品もイメージとして、提示されました。色々な作品をみると、時代の雰囲気がわかってきて、キャラクターが存在する世界観をつかむ手掛かりになるんです。よく“役作りはどうするかはどうするか”と聞かれるのですが、わたしにとってそれは“リズム”なんです。そして、そのキャラクターが存在する世界がどのようなものかを知ることなんですね。
製作中のエピソードを明るく話してくれたケイト。劇中では、その当時、同性同士の恋愛が“犯罪”であったとは想像できないほどに、純粋にテレーズとの恋をはぐくむ姿を見せている。「演技は捉えること」と語る彼女に注目して、恋物語を鑑賞するのもいいかもしれない。
【作品情報】
『キャロル(CAROL)』
公開日:2016年2月11日(祝・木)
監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、カイル・チャンドラー、ジェイク・レイシー、コーリー・マイケル・スミス
原作:パトリシア・ハイスミス
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