「ムラタ ハルノブ(MURATA HARUNOBU)」が2012-13年秋冬ミラノ・ファッション・ウィークでコレクションを発表。日本人デザイナー、村田晴信は23歳という若さでデビューを果たした。
村田はエスモード東京校にてデザインを学びながら数々のコンテストで受賞。最終学年時に神戸ファッションコンテストで特選を受賞しイタリア留学の資格を得た。2010年には、イタリア・ミラノへ渡り、ファッション学校の名門マランゴーニ学院のマスターコースに入学。同校在学中にフランスのディナール国際モードフェスティバルにおいてミニコレクションを発表しパリ市長賞を受賞した。
2012年には、ミラノ・ファッション・ウィークを運営するイタリアファッション協会(Camera Nazionale della Moda Italiana)が主催する若手発掘のコンペティション「ネクストジェネレーション(Next Generation)」に応募。コンペティションの受賞者たちはコレクション発表権が得られるだけでなく、イタリアファッション協会から若手デザイナーにベテランのコンサルタントが直々につき、コレクション発表までプロフェッショナルとして成長していくためのトレーニングを受ける事ができる。コンペティションでは1次審査に残るデザイナーが約90名、その後、数回の選考を経て、その中から今回勝ち残った4人のうちの1人が村田。もちろん、日本人としてコンペティションで勝利したのは初の快挙だ。
2012-13年秋冬コレクションテーマは「静謐(せいひつ)」。村田はテーマについて次のように語った。
「”静謐”という言葉が持つ感覚からイメージを膨らませました。自然の暖かさ、静けさと冷たい鋭さ、霧に包まれた様な柔らかさと水に潜った時のピンと張りつめた緊張感がコレクションを通して作りたかった雰囲気です。」
主なカラーパレットはモノトーンやベージュなどのシンプルな色彩。そしてメインに使用された素材はシルクとウール。これらの生地はイタリアの最高峰のテキスタイルメーカーからの提供で、ラストルックのドレスでは日本の生地に特殊加工を施した高品質な生地を使用した。大胆なカットの中にも日本人特有の繊細な感覚や技術が織り込まれ、日本とヨーロッパの文化を見事に融合。随所に、村田のこだわりと鋭いデザイン感覚が反映されている。
イタリアの上質な生地と日本の技術に欧州、日本のカルチャーの影響を受けつつ生まれた「ハルノブ ムラタ(Harunobu Murata)」のコレクションだが、それらの素材やデザインインスピレーションについて語ってもらった。
メイン素材はシルクとウールです。大部分のシルクはタロニー(Taroni)社、カシミアをエルメネジルド ゼニア(Ermenegildo Zegna)社からそれぞれスポンサーとして最高クラスの生地を提供して頂きました。
白のワンピースでは濡れた裾が凍ったようなイメージで、ウレタン樹脂を生地上で反応させて作った人工の"溶けない氷"をあしらいました。ラストルックのドレスの軽い生地は積水ナノコートテクノロジー社に協力いただき、日本製のスーパーオーガンジーに、masa加工という生地の風合いを保ったまま金属粒子の効果を与える特別な加工がなされた素材を使用しています。
肌を見せるセクシーさがその対局にある隠れた色気を強調するように、また隠された色気が露出のセクシーさを強調させるように、ヨーロッパ的な見せ方と日本的な見せ方の交差を意識しました。
同じくシルエットにおいても、直線的なシルエットの中にウエストをマークして強調するデザインを加えて身体のラインを強調する事で、無機質なデザインに色気を与えています。
今後もニュートラルな色使いで繊細なニュアンスを出していければと思っています。くすんだ色の組み合わせですとか、透明感のある日本的と言える色使いに挑戦していきたいと思っていますが、強い色を多様するのは自分のスタイルとは違うかなと考えています。
バッグおよびレザーアイテムはカステラーリ(Castellari)というブランドの工房とコラボレーションを行いました。ブランドの展望を考えたときにバッグやレザーアクセサリーは重要になってくると思います。今回はその第一歩としてイタリアの革工房に協力頂きました。
小物のデザインのポイントはミニマルな服が退屈にならないよう、イメージを崩さずに少しのスパイスを与えたことです。
ショーの3ルック目、白のシルクガザールのジャケットです。要素を削る研究からダーツや縫い目を省略、変わりに布にスチームで折り目をつけることで立体的なフォルムを作り、またその折り目の機能自体が美しいデザインとして成り立つというものです。鋭くも素材感は軽く、コレクションのコンセプトを反映した一着です。
華やかなデビューを飾った村田の今後の活動も気になるところ。ミラノで活動している彼はこれからどのようなことを予定しているのか、そして日本、イタリアでの経験を今後にどのように活かそうとしているのか、自身の現在の心境や目標などを語ってくれた。
モード産業の盛り上がりが日本と比べて格段に高い事は常に刺激を与えてくれます。これも一つの理由ですが、デザイン活動という面では生地の生産国であるということが一番大きな理由です。素材ありきのデザインですので、その点に置いて質のいい生地が揃うイタリアは理想的な国だと思っています。
イタリアのみならず世界中の異なる文化背景をもった友人達に刺激を受けました。環境が違えば当然デザインの傾向も変わってきますが、例えばブラジル人は独特な色の使い方をしますしロシア人のデザインは本当にセクシーです。その中で、どの様なものが日本人の自分に求められているかを考えるようになりました。特にヨーロッパにおいては、繊細さや禅的なミニマルさ、日本人としての文化が与えてくれるインスピレーションがブランドの核になると思っています。
幸い幾つかオファーが届いているので、しばらくはイタリアのメゾンで経験を積む予定です。イタリアらしいデザインと日本的な文化との融合によって、独自の世界感を作りたいと考えています。
私の目標はブランドを日本発のラグジュアリーブランドに育てることです。
例えば、日本には今回使用した金属コーティングのように、素晴らしい技術はあるのですが、それらをうまく発信できていない状況が続いています。イタリアでの伝統的な生地の質の高さや職人の技術に、日本でしか出来ない先端の技術、日本人としてのアイデンティティーを組み合わせ、新しい美しさを発信できるブランドに育てていきたいと思います。