ディオール オム(DIOR HOMME)が、ブランド名を改め、ウィメンズラインとともにディオール(DIOR)として生まれ変わる。そのスタートとなった今回の2019年夏メンズコレクションは、キム・ジョーンズ就任後初のシーズンである。
今季の招待状には、ブランドのアイコニックな“ビー”モチーフが描かれていた。しかしいつもと違って目が“バツ”マーク。彼の作品の登場を、ほんのり予感させていた。
いざ会場に入ると、招待状と同じく目が“バツ”マークの巨大なオブジェが来場者を迎える。これは想像通り、現代アーティストとして世界に名を轟かしつつあるカウズ(KAWS)の作品。ピオニーやローズの花などでできた高さ10メートルの巨大オブジェは、キム・ジョーンズの大舞台のため“ムッシュ ディオール”を表現して制作したものだ。
オートクチュールのブランドとしてスタートしたディオール。だからこそキムは今季、そのオートクチュールの解釈を自身のコレクションに取り入れた。小さなフェザーはクチュールライクな技法によって、シースルーのシャツにあしらわれ、さらには二重構造のPVC素材の間に繊細な花の模様を作った。また、ディオールがルーツとする18世紀のスタイルに影響を受け、西洋更紗“トワル ド ジュイ”は、シルクオーガンジーを重ねた精緻な刺繍、あるいは柔らかなレザーにエンボス加工で繊細かつ表情豊かに落とし込んだ。
黒と白の二面性を見せたフラワーモチーフはムッシュ・ディオールの使用していたティーセットの柄がインスピレーション。アイコニックな“ビー”モチーフは、今季らしくカウズの手によってプレイフルに解釈された。そのほか、「レディ ディオール」をはじめとする多くのアイテムに施されてきた格子柄「カナージュ」、マルク・ボアン時代よりアイコニックな存在であり続けたオブリーク柄など、ディオールの歴史を語る上で欠かせないデザインが続々と現れる。
メゾンの長い歴史の中で登場してきた数々の銘品は、キムなりの解釈を踏まえて蘇らせている。例えばこれまでウィメンズで提案してきた「サドル」バッグは、キャップのツバ部分などにもデザインが派生し、象徴的なカーブのシルエットが用いられた。もちろん、バッグも登場していて、小さなボディタイプから、クラッチ、ミニリュック、ショルダータイプなど充実すぎるラインナップだ。
そして、ブランドのアイデンティティともいえるスーツは、キムの手によってこれまでになく肩がなだらかなフォルムへとシフトされている。アシンメトリーな前合わせは、これまでに例がなく、新しい歴史の1ページとなった。
カラーパレットもまたディオールの歴史を踏襲したセレクト。クリスチャン・ディオールが幼少期を過ごした場所、グランヴィルはいつも空が曇っていて、そのどんよりした気候の中でも晴れやかな気持ちでいられるようにと外壁をピンクにしていたという。そんな理由で、メゾンを象徴するカラーのひとつとしてピンクとグレーが挙げられるのだが、今季はその2色に、目の覚めるようなイエローと爽やかなブルーを加え軽やかな色味で構成している。
今季は、キム・ジョーンズとともに数人のクリエイターたちが、新生ディオールを盛り上げた。ジュエリーデザイナーとして、アンブッシュ(AMBUSH)のYOONが就任。さらに、帽子はスティーブン・ジョーンズ(Stephen Jones)、“CD”ロゴを配したベルトはアリクス(ALYX)のマシュー・ウィリアムス(Matthew Williams)が手掛けている。