マルニ(MARNI)は、2019-20年秋冬コレクションをイタリア・ミラノで発表した。
壁に埋め込まれたスピーカーから突き動かすように鳴る重低音が、打ちっぱなしの無機質な会場内の空気をインダストリアルに演出。さらに、着席した観客の密集した呼吸が、会場内の緊張感をより一層高めているようだった。
浮き彫りになったメッセージは、“いかなるものも何にでもなりうる可能性を持っている――”。たとえば、感情や神経細胞、方々から聞こえる歌声はもつれ、抗議を表明していながらも、同時に知性をまとっているように。服という三次元的な表現において、あらゆるものの多面性を投影したコレクションが展開された。
散見されたのは、異なる柄のコラージュ。パッチワーク、またはレイヤードで、多彩な要素の模様をミックスしている。レイヤードされている何枚かのシャツには、可憐な小花柄をはじめ、カラフルな絵具でダイナミックに描いたかのようなテキスタイル、モダンな幾何学模様、知的なチェック、カモフラージュに上書きしたレオパードなどをプリント。ユニークな世界観を見せながらも、統一感とともに洗練された印象を描き出す。
華やかな柄のファブリックは、目を凝らすと粗野な断ち切りでパッチワークされていたり、ロールアップで柄を表に出したり、脱色・移染させて曖昧なニュアンスを作り出したりと、ラフな繋ぎ合わせ方でまとめられている。手で破ったかのようにダメージを加えたダイヤ柄ニットの下には、レオパード柄ニットを重ねることで、アグレッシブでパンクなムードを漂わせている。
起毛感のあるウールのコートやセットアップ、ボーダーのモヘアニット、またはアニマル柄のファーで仕立てた襟やグローブ、ストールなど、ボリュームのある動物的な表現も特徴的。オレンジのウールで仕立てた上品なフォルムのコートには、タイガーモチーフのレッドのファーをあしらった極端に長いニットストールを合わせ、ポップな存在感をプラスした。
コレクション全体を見ると、艶やかなレザーのロングコートや、ストライプのセットアップといったエレガントなアイテムと、プルオーバーの中綿コートやダウンベスト、裾に向けて広がるオーバーサイズのパーカーなどの活動的なウェアが混在していることに気が付く。ウェアの性質こそ違うものの、姿勢は全て同じくアクティブに攻めている。
端正なセットアップを覆うようにして重ねられたニット、あえて片側だけスラックスから出したシャツ、ダウンベストからさりげなく覗くブルーノ・ボゼットのアニメーション、いびつなバランスで重ねられたベストとパーカーの幾重にもなるレイヤードなど、あえて釣り合っている状態を大胆に崩し、意外性のある要素を交ぜ合わせて作られたスタイルは、新しい均衡を見せてくれるのだ。