ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)は、2019-20年秋冬メンズコレクションを、2019年1月17日(木)にフランス・パリのY's Franceにて発表した。ランウェイ上には、ドラゴン・アッシュ(Dragon Ash)のダンサー・ATSUSHI がモデルとして登場した。
「言葉の力は、服の力に比べれば弱いはずなんです」と、デザイナー・山本耀司は静かに語った。その発言通り、今回は前シーズンや近年のコレクションと比較すると言葉に焦点を当てた服は減り、表象的な表現が増えている。また、文字で象徴的な“黒”の付く言葉を羅列したプリントや、ブランドの頭文字である“Y-Y”を数式のように並べた刺繍は、あくまで記号的に使われているように見受けられる。
また、「今までは乱暴な言葉をプリントしてきましたけど、世界中で流行っちゃって同じようなものが増えすぎた」とも、山本耀司は口にした。
言葉に代わって力を得たのは刺繍や図像の転写、ボタン使い。黒をベースに転写された抽象的なイメージは、力強さと水墨画のような静けさの両方を持ち合わせている。ウール地で仕立てた流れるようなシルエットのロングコートと、連動した柄のパンツに組み合わせられたのは、ボタンやボタンホールのステッチに用いられた白がアクセントを加えるブラウス。あえてランダムに施された刺繍の糸は、深みのある黒にノイジーな爪痕を残す。
ブラウスの襟やアウターには、蜘蛛の巣を連想させる緻密な刺繍が施されている。布地の上に張り巡らされた蜘蛛の巣は、すぐにでも崩壊しそうな脆さ、繊細さを感じさせ、果敢ない美しさを見せる。また、糸を幾重にも重ね、デッサンのようにして動物を描いたコートは、哀愁に満ちた動物の表情が印象的。心にそっと入り込むような、デリケートな表現が見て取れた。
ショーのBGMでも使われた「アメイジング・グレイス」に刺激を受け、17世紀の人権解放運動からインスパイアされて作られたミリタリーテイストのウェアは、山本耀司が考える“最高級の軍人”をイメージ。襟のラインや服地の流れに沿って整然と並べられた金ボタンは品のある輝きを放ち、無骨な軍服にエレガンスを与える。「軍人がエレガントになれば世界は良くなると思うけど」と、山本耀司は冗談めかして話す。
また、レリーフのようにシンボリックな大きいサイズのボタンも登場。1つ1つのボタンには蜘蛛やサソリなどのモチーフが刻まれ、チェーンとともにあしらわれている。身体に寄り添い包み込むようなロングコートの数々からは、身に着ける人に温かみをもたらす安心感と同時に、逆説的なアンチテーゼが感じられる。