ヨウジヤマモト プール オム(Yohji Yamamoto POUR HOMME)の2025年秋冬コレクションが、2025年1月23日(木)、フランスのパリにて発表された。
包みこむように、温かなコレクションだ──衣服の役割は何かと考えたとき、その人の社会的な役割、人柄、個性を表す、ということを挙げることができよう。たとえば、端正でクラシカルなテーラリングならばフォーマルな場面、信頼のおける人柄、というように……。それはしかし、衣服を記号的に捉えてしまっていないだろうか?──今季のヨウジヤマモト プール オムは、衣服のそうした記号性を解体し、身体を包みこむものという、ある種原点ともいえる場所を眼差しているように思える。
身体を包みこみ、体を温め、そうして衣服を身に纏う人に確かな存在感を与えること──だからそれは、機能性という言葉に落とし込めるものではなく、衣服を身に纏うことの本能的な営為ではなかろうか。それでは、どのように「温める」のか。多種多様なジャケットやコートから、シャツ、パンツにいたるまで、コレクション全体にわたって徹底的にパファーとキルティングが採用されているのだ。
テーラリングを思わせるシングルブレストジャケットやチェスターコートを見てみれば、たとえば、いわゆるスポーティなウェアに使われるであろうナイロン素材を採用し、水平に、斜めに、縦にキルティングを施す。時にフーディを組み合わせ、身体全体を包みこむような佇まいに仕上げている。何よりここで、テーラリングはフォーマルなウェアである、ナイロンやパファーはスポーティな素材であるという単純な等号、記号性は、解体されることになる。
衣服の単純な記号性の解体は、表面・裏面という二項関係にも及んでいる。ジャケットやブルゾン、コートは、キルティングを施したツイードやナイロンなどを用いて、いわゆる「表面」を作っているが、そのウェアの表裏を返せば、なるほどパファー仕様ゆえのボリュームはなおも残るけれども、より平滑な、しかし異なるファブリックの切り替えが際立つ佇まいへと変換される。
パファーという、スポーティなウェアに使用されることが多い素材を使用しているため、ナイロンやビニースなど、合成繊維ならではの光沢を帯びたファブリックが多く見られる。その一方、身体を包みこみ、その存在を確かめるというベクトルに呼応するようにして、温かく、あるいはヴィンテージを思わせる風合いの素材も随所に用いられている。ベロアだろうか、起毛感のあるファブリックは温かみある素材の一例であるし、生成りのツイードは、着慣れて身体に馴染んだかのような素材感を示している。
身体を包みこんで、その人の存在を確かめること。それが装いの本能的な欲動のひとつならば、そこにある種、祈りのような何かを感じてもいいのかもしれない。キルティングで仕上げたジャケットやコートには、しばしばチェーンのモチーフが、スリーブの付け根に、バックにあしらわれる。それは、衣服にアクセントを添える装飾や、何か役に立つ機能性であるという以上に、身体のどこか弱い部分を印付けて守るものであったかもしれない。