ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)は、2020年春夏メンズコレクションを、2019年6月20日(木)にフランス・パリのY's Franceで発表した。
穏やかな音楽が流れる中で、静かに始まった今季。生地の分量をとって身体を緩やかに包み込むジャケットや、空気を含み、流れるような仕立てながらも、風格を感じさせるワイドシルエットのパンツなど、ヨウジヤマモトらしいアイデンティティーを感じさせる、シンプルなセットアップが登場。ジャケットやパンツの前後には、うねるような筆致の抽象的な絵柄が淡く配されており、実体はつかめないものの混沌とした複雑なイメージを服地に乗せた。
ロングジャケットのバックには、“美しい物は日々消えていく”という文字が縦書きで並べられている。山本耀司の美学を投影した服の上で、敢えて美しさの儚さを示唆するこのテキストからは、自嘲的な山本耀司の視点が見て取れるようだ。
細やかなボタンやリボン使いにも注目。これらのディテールによって、パターンメイキングが予定調和的な表現から外れ、独自性のあるものへと変化していく。波打つように曲線を描く合わせに、絶妙な間隔で配置されるボタンは、服地のリズムを変化させ、服に躍動感をもたらす。また、服から伸びるリボンは、奔放でありながら決して無作為ではない。ジャケットの後ろに配したタックや肩のライン、裾への流れに連動して、必然的な配置が施されている。
ベロア素材で仕立てたアウターには、西洋的なモチーフを大胆にプリント。紋章やピストル、フラッグなどが鮮やかな色彩で描かれており、ブラックのウェアにダイナミズムをもたらしている。
どこか退廃的な表現も散見された。赤と黒を用いたデカダンなペイントと、山本耀司のシルエットの刺繍を配したトップスや、白い糸でスカルやピースサイン、ギターなど、ノイジーな刺繍を配したパンツやコートなど。糸や線の描く図像や文字は、繊細でありながら強い存在感を放っている。
2018年春夏メンズコレクションにおいても登場した、画家・内田すずめ による“ばけもの画”モチーフのウェアも展開。今シーズンは山本耀司から「男は女に絶対勝てない。男を圧倒的な存在感で飲み込む女性を描いて欲しい」と、“ばけもの”をテーマとした絵を依頼したという。ジャケットのバックを飾る、顔の部分を黒く塗りつぶした女性は、その手に自身の生首を持っている。その他にも、闇の中にぼうっと浮かび上がるような、繊細で曖昧な像の女性が、チャイナシャツやロングブラウス、ロングジャケットに描かれた。
目に留まったのは、軽やかな素材を使用した意外性のあるルック。ヨウジヤマモトが得意とする黒のウェアに、ライトなピースを合わせることで現代的な気分を反映した。爽やかな生成りのストライプ地で仕立てたシャツや、ブラックの生地と切り替えたハーフパンツは、スタイリングに軽快さを加える。明るいイエローのアクティブなコートには、黒のカットソーをレイヤードして色彩にメリハリを。スポーティーな雰囲気を織り交ぜ、活動的な印象を描き出した。