そういった信頼はなぜ生まれるのでしょう?
北川:綾野さんとは、同じようにお芝居の道を歩んできましたし、デビューの時期が一緒で年齢も遠く離れてはいないから、同世代としての感覚を共有しているのかもしれません。いわば同期のようなもので、わたしとしては気楽な関係であるとともに、きっとこの人と演技をすればうまく行くのだろうなという思いがあります。
『ドクター・デスの遺産』を観る人には、どのようなことを感じ取ってほしいでしょうか?
綾野:北川さんが最初に言っていた、考えるきっかけ「だけ」なのかもしれないですね。多分、僕たち自身も考えるきっかけにはなったんですよ。
北川:なりましたね、なったけれども結局答えは出なかったりして。映画を観た人がどんなふうに思ったのか知りたいよね。皆さんはどう考えますか、もしあなたがこういう立場になったらどうしますか、って。
綾野:まず何よりも、知るところから始まるんですよね。世の中には知らなければならないことが溢れてはいるけれども、それだけ情報が出つくしているなかで、洋服も、音楽も、芝居の質もジャンルも、何が新しいのかわからない。
けれども、時代が持っている“エンジン”は間違いなく未来に向かっているわけです。だからこの作品も、どこまでも考える「きっかけ」になればいいなと思います。
綾野さんと北川さんはどのようなことを考えましたか?
北川:わたし自身、演じていて何周も回ったんですよね。安楽死が正しいことなのか、正しくないことなのか、死にたいと言っている人を生かすのはかわいそうなことなのか、でも自分の親ならば生きていてほしい……、わたし自身振り子のように揺れて、結局答えは出なかったです。
綾野:僕の演じた犬養の場合、生と死の距離感が近くなっていた娘の存在があったからこそ、事件に過敏に反応した。なので、例えば犬養が独身で、逆に高千穂に子供や家族がいた場合、これは多分高千穂に起こることなのです。誰しもそのスイッチは持っていて、たまたま今回は僕だったということにすぎません。
そういうことは、高千穂の最後の台詞に全部込められているのでぜひ注目してほしいです。
北川:そう、だから犯人を逮捕してもスッキリしないわけじゃないですか。なのでこの映画は、同じ人が見ても、この時に見たらこう思ったけど、何ヶ月後かに例えばDVDで見たらまったく違う感想になるように、その人の置かれた状況によっても見え方が変わるでしょうね。わたし自身、いろんな人の感想にふれて、またどう感じるのかが楽しみです。すごくデリケートな作品なのだと思います。
終末期の患者ばかりを襲う連続不審死事件が発生。捜査に乗り出す犬養と高千穂は、依頼を受けて患者を安楽死させるドクター・デスと呼ばれる医者の存在に辿りつく。そんななか、重度の腎臓病に苦しんでいる犬養の一人娘・沙耶香が、ドクター・デスに安楽死の依頼をしてしまう──。“安楽死”という手口で、被害者を苦しませることなく安らかな死を処方するドクター・デスの目的と正体とは? 犬養と高千穂はこの連続殺人犯にどう挑むのか!? 驚きの結末が待つ、犯罪史に刻まれる禁断のクライム・サスペンス!
映画『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』
公開日:2020年11月13日(金)
原作:中山七里『ドクター・デスの遺産』KADOKAWA/角川文庫、2017年
監督:深川栄洋
出演:綾野剛、北川景子、岡田健史、前野朋哉、青山美郷、石黒賢