広瀬すずと松坂桃李が、2022年5月13日(金)公開の映画『流浪の月』でW主演を務める。
映画『流浪の月』は、2020年の本屋大賞を受賞した凪良ゆうのベストセラー小説を実写映画化するもの。10歳の時に誘拐事件の“被害女児”となり、世間に名前を知られることになった家内更紗(かないさらさ)と、その事件の“加害者”とされた当時19歳の大学生・佐伯文(さえきふみ)。15年後に再会した2人が、世間からの終わりのない偏見と好奇の目にさらされながら、懸命に手繰り寄せた“絆”を描く。
更紗を演じた広瀬すずと、文を演じた松坂桃李は、2人の結びつきをどのように捉えたのだろうか?『流浪の月』での役作りについて話を聞くと、広瀬&松坂自身が世間から持たれているイメージとどのように向き合い、役者として成長してきたのかについても迫ることができた。
・広瀬さんは、10歳のときに誘拐事件の“被害女児”となり、世の中に広く名前を知られることになった家内更紗という女性を演じました。更紗という人物に、どのようなイメージを持っていましたか。
広瀬:事件後に心を閉ざして、普通に生きてしまった人、というイメージです。流れに身を任せていて、良くも悪くも他人の深いところに触れずに、期待もせずに生きている人なんだろうなと思いました。人前では、あたりさわりがないように“癖のように笑っている”というイメージがあって、そこを意識して演じました。
・文と再会することで、更紗の内面にも少しずつ変化が訪れていきますね。
広瀬:文と再会してからの更紗には、少しのびのびした印象がありました。世の中から“被害女児”というレッテルをはられて、心を閉ざして生きてきた更紗にも、10歳の時の自由な感覚が、消えずに残っていたんだなって。
・世の中から押し付けられるレッテルとそれに対する苦悩、というものが物語の1つのテーマにもなっていますね。
広瀬:世間からの心無い言葉や視線に対しての、純粋な反抗みたいなものが描かれています。文と更紗は、間違ったことは何もしていないし、許されないことをしているわけでもない。私自身、「何がいけないんだろう」と思いました。だから、まずは更紗の思いを私が信じてあげる、というところから役作りが始まりましたね。
・「信じる」ということも、更紗と文の関係を語る上で欠かせないキーワードでした。
広瀬:世間から“被害女児”とされている更紗は、「かわいそう」という言葉や視線をよく浴びせられるんですが、更紗自身は「私は別にかわいそうじゃない」と信じている。文に対する思いも、15年間ずっとぶれていないんです。物語の中で、更紗のことを信じてあげられるのは、更紗自身しかいないんだろうなと思ったので、そこは大切にしていました。
・広瀬さん自身も、女優として、世の中からのイメージに苦しんだ経験はあるのでしょうか。
広瀬:10代の頃は、イメージで見られるということにすごく違和感を感じていました。「自分がやりたいことと、求められていることが違うな」とか。でも、最近はそういう違和感は減ってきていますね。少しずつ大人になって、いろんな人と関わることで、感覚が変わり始めています。
・どのような気持ちの変化があったのでしょうか。
広瀬:「本当の自分をもっと知ってもらいたい」という思いから、「知られない方がいいこともあるのかも」という気持ちの変化ですね。その方がお芝居の幅が広がるんじゃないかなと思います。いろんな“良いこと” を見つけて、ポジティブなマインドでいられるようにしています。10代の頃だったら「本当の自分とは違うイメージを持たれてしまって嫌だな」と思っていたようなことも、「求められているイメージを全うできているのかも」と前向きに捉えるようになってきました。
・ネガティブなことも、ポジティブに変換することで乗り越えようとしたのですね。辛いことも多い役者の仕事。それでも広瀬さんが演じ続ける理由は何なのでしょうか。
広瀬:正解がわからないところが、ずっと演じ続けている理由だと思います。一生、自分の演技に満足できないんじゃないかなと。自分が少しでも満足してしまったら、女優という仕事を辞めるだろうなと思います。
・自分の演技には、まだ満足していないと。
広瀬:ずっと“悔しい”という気持ちが続いています。女優の仕事を始めた時は、「すぐ辞めるだろうな」とも思っていたのですが、結果、ずっと悔しい。悔しくて、自分に満足できていないから、演じることを辞められないんだなと思います。
・松坂さんは、少女誘拐事件の“加害者”とされて生きてきた佐伯文を演じました。文をどのような人物として捉えていましたか。
松坂:イメージとして言うと、波風がたっていない湖の真ん中に、ぽつんと体育座りで座っているような、植物っぽい感じの人物だと思いました。湖のように澄み切っているけれども、冷たくもあり、それでいて底の部分はグツグツとマグマのようなものが煮えている感じというか。言葉で説明するのが、すごく難しいんですけど。
・そのイメージを表現するために、どのような役作りを行ったのでしょうか?
松坂:文としての“実感”を積み重ねていきました。撮影中に何かを気を付ける、というよりは、現場に入る前に自分が思いつくことを手当たり次第やって。文が大学時代に住んでいた設定のお風呂が使えないアパートで、しばらく寝泊まりをしたり。文はカフェを営んでいるので、珈琲を焙煎するところから習ったり。あとは日記を書いたりもしました。
撮影が始まってからも、更紗役のすずちゃんや、10歳の更紗を演じた白鳥玉季ちゃん、文の母親役の内田也哉子さんと常にコミュニケーションを取り、文としての“実感の積み重ね”を抱えながら現場に行くような感じでしたね。その実感を保つのが、とても難しいことでした。
・文の役作りには、苦労したと。
松坂:今でも、文のことを100%理解できているとは言えないかもしれません。そのくらい、文の人物像をつかむのは難しかったです。ただ一つだけ確かなこととして分かっていたのは、文にとっては更紗との繋がりが一番、ということ。
・文にとっては、世の中からの視線よりも、更紗との結びつきこそが重要なものだったと。
松坂:そうですね。更紗との繋がりを離してしまうと、全てがぼろぼろになってしまうような危うさがありました。世の中からどう思われるか、ということよりも、更紗との結びつきを途絶えさせないように必死に生きている感じがしました。