ラッド ミュージシャン(LAD MUSICIAN)は、2020-21年秋冬メンズコレクションを発表した。
今季のテーマは、「THERE IS STILL TIME. . MUSICIAN」。スタンリー・クレイマーの映画『ON THE BEACH(渚にて)』や、キース・ロウのギターノイズ、サミュエル・ベケットの小説などから着想を得た、因果関係の枠にあてはめられないこの世の“不条理さ”を投影しつつ、“まだ時間はある”というメッセージを示唆。静かな世界の中で、音楽が鳴るのを待っている――そんなイメージを彷彿させる。
絵画的なプリントのテーラードジャケットやパンツ、シャツをよく見ると、鮮やかな赤や青の花の影に髑髏が見える。終末を暗示するかのような、髑髏と花の総柄が見せるのは退廃的な美しさ。セットアップで着用しても、ダークトーンのボトムスやニットなどと組み合わせて着用しても、髑髏と花のイメージが佇まいに静けさをもたらしているのが印象的だ。マットな質感のウール地のウェアに加え、艶やかなサテンのスカジャンも展開する。
髑髏のモチーフは、布帛だけではなくニットにも落とし込まれている。ロウソクが照らし出す祭壇に転がる髑髏を単色で表現したベストやセーターは、暗闇や陰影を思わせるダークな雰囲気。一方、一筆書きのように一本の線で髑髏や花を表現したカーディガンやセーターは、どこかチャーミングな表情を見せる。
また、“最後の晩餐”を連想させる絵画モチーフも登場。黒い背景に、はっきりとした色彩でエビや食べ物、犬、鳥などを独特の構図で描いた絵柄は、ブルゾンやオーバーサイズTシャツにプリント。また、スイングトップに合わせたしなやかなロングブラウスや、緩やかなドレープ感のワイドパンツには縮率を小さくして同じ絵柄を反復。小さい絵柄がずらりと並ぶことで、早送りを見ているかのようなノイジーさを感じさせる。
熟れたバナナのプリントもアイキャッチなモチーフだ。Syrup16gの『バナナの皮』の歌詞から着想を得たバナナは、起毛感のあるモヘアニットやカーディガン、しなやかな落ち感のオープンカラーシャツなどに用いられた。サーモグラフィーのようなプリントを配したスウェットは、脈打つようなシュガースポットがサイケデリック。バナナの皮をグリーンにカラーリングしたカーディガンはどこか毒々しい印象だ。
目に留まるのは、ショート丈で立体感のあるシルエットに仕立てたジャケット。やや青みがかったダークな色彩の“パープルブラック”に彩られたダブルのテーラードジャケットは、ややドロップさせたショルダーとボクシーな身幅、コンパクトな丈で、中に着たシャツが裾から見える。ボリューム感のあるワイドパンツと組み合わせるとシルエットに緩急が生まれてバランスが取りやすく、反対にスキニーパンツなどのスリムなボトムスと合わせてコーディネートすると、より一層シャープな印象を演出する。
その他、ライダースジャケットのような合わせのウールファスナージャケットや、オーバーサイズのシングルジャケットもやや短めの丈に仕立てられている。
独特な分量感のコートは、多彩なバリエーションで用意。チェスターコートやトレンチコートは、ショルダーを緩やかに落とし、裾に向かって生地をたっぷりと使うことでドレープ感のあるAラインシルエットに。また、ベンチコートをベースに、ステッチを無くしたフーデッドコートはミニマルで落ち着いた雰囲気の1着。フードを取り外して着ることも可能だ。ステンカラーコートは、大きめの襟を配しネックポイントを下げることでよりエレガントに仕立て、流れるようなシルエットで身体を包み込む。