ミューラル(MURRAL)の2021年春夏コレクションが発表された。
1つのつぼみがある。ゆっくりと膨らみ、少しずつ、すこしずつ開いて花を咲かせ、盛りを迎える。そして花びらを散らすものがあれば、徐々に萎みゆくものもあり、あるいはすっかり乾ききってしまうものもある。先シーズンのミューラルが、ほんのいっとき盛りを迎える花の美しさをすくい上げたのならば、今季はむしろ、呼吸の長い自然の時間に寄り添う感覚を示している。今季のテーマ“path”とは、そのように時間のひとつひとつが積み重なってできた“線”にほかならない。
ミューラルを象徴するオリジナルレースのドレスには、百合の一種“ゼバ”の花を繊細な刺繍であしらった。まだつぼみであるゼバが徐々に膨らみ、花を咲かせ、そして枯れゆくまでを、ひとつながりの刺繍で仕上げている。上から下にかけて躍動感を与える柄ながらも、ワントーンで統一することであくまで落ち着きのある雰囲気を醸し出した。
自然が長い時間をかけて形成する“鍾乳洞”もまた、今季のモチーフの1つである。シングルブレストやピークドラペルのリネン調スーツには、ベージュやモスグリーン、スカイブルーなど、洞窟内の壁面、そこに蔓延る藻類、そして静かにたゆたう水面の色彩を、淡く繊細にのせた。長く伸びた上衿も、生長する蔦に着想を得ている。また、シースルーのワンピースなどには鍾乳石の模様をプリントするなど、移ろいの儚さに目を向ける以上に、自然の表情を、それをかたち作った長い時間もろともに慈しむまなざしが強く感じられる。
鍾乳洞の内壁には、石灰質を含んだ雫が伝うことで、白くきらめく白線が形成されるという。そうした自然のきらめきをのせるかのようなマキシスカートは、奥行きのある光沢を放っている。しなやかな質感の布地をたっぷり贅沢に用いることで、上品な落ち感と流麗なドレープを持つ1着に仕上げた。トップスに合わせた“虫食い”風ニットには、ランダムに施した穴の模様に、フィラメントがきらめきを添えている。
ところで“都市”も、時とともに変化する。雨風により鉄格子は錆つき、道路もすれゆく──人工物たる都市もまた、自然と同じように時の変化を被り、しかし自然とは異なる表情を生み出してゆくのだ。リネン調のブルゾンやロングスカートなどには、鍾乳洞の石灰石のきらめきを意識しつつも、時間とともに欠けてゆくアスファルト上の白線をイメージした箔をのせた。きらめきを放ちながらも、リラックス感あるシルエットとナチュラルな素材感で、自然な印象に仕上げている。
ヴィーガンレザーを使用したジャケット風のジレやタック入りのスカート、ワンピースなどは、いずれもウォッシャブル仕様であり、人工物とともに時間を紡ぎゆく意識を映したものだといえよう。レーザーカットによる細かな模様で彩りつつも、裾や裾ぐりなどにはジグザクのステッチを施し、形が崩れない工夫を凝らしている。
足元には、蔦のように入り組むレザーサンダルを合わせて。今季からスタートするオリジナルのシューズラインには、このほかにもレーザーカットで細かな模様を施したサンダルも用意する。また、雫をイメージしたピアス、岩の肌理をそのままかたどったネックレス、そして絡みあう蔦をモチーフとしたバングルやイヤリングなど、時間のうつろいに寄り添うという今季の姿勢を、直接的に、しかし繊細な“かたち”で映し出すアクセサリーもまた、慎ましくも華を添えている。