リック・オウエンス(Rick Owens)の2022年春夏ウィメンズコレクションが発表された。
微細な水滴が空気中に浮遊して集合をなす“霧”とは、風を受けて流動し、自在にそのかたちを変幻してゆく一方、風が吹けばたちどころに消滅するというように、すぐれてその場を取り巻く環境を可視化するものだ。では、衣服は──さまざまな素材、身体とその運動の関係のうちでかたちを織りなす点で、ある意味霧と類似する。“FOGACHINE”をテーマとした今季のリック・オウエンスは、霧のごとく軽やかにフォルムを変えてゆく。
まず、即物的に身体と衣服のシルエットの呼応に着目すると、一方ではバストとウエストを覆い、ショート丈のパンツスタイルを組み合わせたボディスーツは極めてタイトであり、艶かしい素材の質感と相まってフェティッシュなムードを高めている。その他方で、スリーブの位置をぐっと下方に設定したプルオーバーや、しなやかに身体を覆うロングドレスは、極端なハイネックを組み合わせ、それを身にまとう身体自体を飲み込まんばかりである。
さて、軽やかでシアーなファブリックを用いたドレスやローブ、マントは、繊細なギャザーと豊かに波打つドレープとともに身体を覆うシルエットはクラシカルながら、その透け感でもって官能性を引き立てる。しかし今、霧の主題系に引き付けるのならば、身体に絡みつき、重力を受けてしなやかに落ち、そして風を受けて躍動的に揺らめくことで、自在なフォルムを示している。
より柔らかなフォルムの変幻を示すのがレイヤードしたニットであろう。編み目は極端に緩く、溶けるようにして身体に絡みつくモヘアニットは、タイトシルエットであるにもかかわらず多孔質であり、編み目はもちろん、フロントにはネックホール状に隆起して、多層的な構造を強調している。
シアー素材やニットが「柔らかな」変幻を示すのならば、逆に構築性を誇張する「硬い」フォルムは、とりわけテーラリングアイテムに見られる。ジャケットはタイトなボディスに対して、ショルダーをホーンのように誇張。また、屈強なショルダーが特徴的なロングコートは、両サイドを双曲線状にカットアウトすることで、ジレスタイルへと漸近させた。