ヨーク(YOKE)の2022年秋冬コレクションが、2022年3月14日(月)、渋谷・ヒカリエホールにて発表された。
ヨークが、ブランド初となるランウェイショーを開催。主に20世紀に活躍した芸術家をテーマに選んでコレクションを手がけてきたヨークであるが、今回選んだのはクリフォード・スティル──戦後アメリカで興った抽象表現主義の先駆的存在であり、カラーフィールド・ペインティングの画家として知られるアーティストである。
2021年秋冬にテーマとしたマーク・ロスコや2022年春夏のバーネット・ニューマンに見るように、カラーフィールドの絵画作品は、その名の示すごとく画面上に広げられた色面による抽象表現を特徴としている。しかしスティルにあって、画面はロスコやニューマンのように静的ではなく、むしろジャクソン・ポロックと似て動的にして鮮やかだ。そのバロック的な色彩表現の躍動感は、初となるランウィイショーに似つかわしい。
スティルのダイナミックな色彩表現を反映するようにして、重厚なアウターとニットアイテムを中心としたコレクションは、グリーンやイエロー、赤みを帯びたレッドなど、レンジに富んだ力強い色彩群から構成されている。毛足の長いニットカーディガンやプルオーバーには、ダイナミックな色彩をジャカードで表現。また、編み方を不定形に変えたニットも登場した。一方でAラインのロングコートや丸みを帯びたシルエットのブルゾンには、さながら色面を引き裂いたかのようなブラックとホワイトのパターンを大胆に表している。
「色面を引き裂いたかのよう」に、色彩がその下層に異なる色彩を覗かせる──これはスティル作品の特徴である。そしてヨークは、これを素材のレイヤリングや切り替えでポリフォニックに表現する。トレンチコートは異なるトーンのテキスタイルを重ねて構築。ボリューミーなシルエットを描くロングコートやカーディガンでは、キルティング素材など異素材と切り替え、さながら通常のコートの表面と裏面を反転させたかのように構築した。
サイドに設けた大胆なスリットも特徴だろう。トレンチコートをはじめ、ロング丈のコートにはサイドスリットを深くデザインして、着こなしのレイヤリングを引き立てる。と、同時にスリットからパンツのポケットに手を入れやすく、立ち止まった佇まいもまた独自の落ち着きを放っている。あるいはパンツには、ファスナー仕様でスリットを入れる。そのように表層を引き裂くウェアは、その下層──インナーのウェアであるかもしれないし、それを身にまとう身体そのものかもしれないし──を多声的に垣間見せる。
「立ち止まったおりに見せる佇まい」について書いた。そうした場面が生まれるのは、今回のショー演出ならではかもしれない。会場はさながらギャラリー空間──ヨークのこれまでのコレクションに携わった10人の作家の作品が展示され、そのなかでショーが行われた。モデルはいわばギャラリーを訪れる鑑賞者であって、展示作品に目をとめ、ふと立ち止まり、それに見入り、ソファーに座り込み、歩みを緩め、あるいは追い越し追い越され、時に振り返ってはもと来た道を辿り直す。モデルたちの足取りは、ここでは単線的ではなく、それ自体ポリフォニックだ。本記事のタイトルとした「ポリフォニー」とは、色彩と素材ばかりでなく、ショー演出における多声性の謂いでもあった。