「睡蓮」の絵画を手がけたクロード・モネなどに代表される、印象派。フランスで生まれた印象派の表現は、ヨーロッパをはじめ世界各国に広まり、なかでもアメリカにおいては各地で自由に展開してゆくこととなった。こうした印象派の広がりを、特にアメリカ印象派に着目しつつ紹介する展覧会「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」が、東京都美術館にて、2024年4月7日(日)まで開催される。
19世紀後半のフランスで起こった印象派は、西洋絵画の伝統的な表現から離れ、眼前に広がる光景をいきいきと描きだすことを試みるものであった。伝統絵画で重んじられる歴史画や神話画とは異なり、身近な光景に目を向けた印象派の画家たちは、戸外を制作の場として、鮮やかな色彩や大胆な筆触を用いることで、世界を目に映るがままに描きだそうとしたのだ。
当時、芸術の中心地であったパリには、世界各地から多くの芸術家が集まっていた。こうした画家たちは、西洋絵画に大きな転機をもたらした印象派の手法にふれ、新しい表現を自国へと持ち帰ってゆくこととなった。その影響はヨーロッパにとどまらず、新大陸アメリカや、明治に入って近代化を推し進める日本にも及んでいる。
展覧会「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」では、とりわけアメリカにおける印象派の諸相に光をあてつつ、印象派の展開を紹介。モネの《睡蓮》を美術館としては世界で初めて購入するなど、印象派の作品を積極的に収集してきたアメリカ・ボストン近郊のウスター美術館の印象派コレクションを中心に、40人以上の画家の作品が一堂に会する。
世界各地における印象派の広がりをたどる前に、まずはフランスの印象派を概観しよう。目の前の世界をいきいきと捉えることを試みた印象派の画家は、主題と色彩の面で、伝統的な絵画を覆した。伝統絵画は、歴史画や神話画などの物語性を重視し、なめらかな筆遣いで絵画を完成させるものであった。これに対して印象派は、同時代の身近な光景をモチーフに、大胆な筆触で明るく鮮やかな色彩をカンヴァスにのせていったのだ。
これはたとえば、風景画によく見て取ることができる。伝統絵画において風景は、物語が展開する舞台として、いわば「理想化された」光景として描かれた。しかし、印象派の画家は、近代化の進む大都市パリであったり、いきいきとした自然にふれられる田舎町であったり、現実に存在する風景に魅力を見出し、それらを描きだそうとしたのだ。
本展では、フランスの印象派の歩みを、幾つかの作品とともに紹介。なかでも、クロード・モネの《睡蓮》は、ウスター美術館が美術館として世界で初めて購入した「睡蓮」の作品だ。そのほか、モネがフランス北西部・ノルマンディー地方の海岸沿いを描いた《税関吏の小屋・荒れた海》や、近代化する街の風景をモチーフにしたカミーユ・ピサロの《ルーアンのラクロワ島》などを目にすることができる。
19世紀後半のパリには、ヨーロッパ各国やアメリカなどから画家が集まり、印象派にふれることになった。その例が、アメリカ人のメアリー・カサットやチャイルド・ハッサムである。カサットは、印象派の画家と交流しつつ制作するばかりでなく、アメリカの友人や収集家にアドバイスをするなど、印象派の普及に貢献している。一方でハッサムは、パリで印象派などの新しい表現に接して、自身の制作に取り入れてゆくことになる。