会場では、アメリカ人画家の印象派受容の一端を紹介。カサットの《裸の赤ん坊を抱くレーヌ・ルフェーヴル(母と子)》は、愛情あふれる母子像で知られるこの画家らしい作品だ。また、ハッサムの《花摘み、フランス式庭園にて》には、パリ郊外の友人の庭園を題材に、明るい色調やいきいきとした筆触など、印象派を特徴付ける技法が用いられている。

アメリカにおける印象派の展開

では、アメリカの印象派に目を向けよう。1880年半ばのアメリカでは、画商や収集家のあいだでヨーロッパの印象派が注目を集めつつあった。こうした需要を満たすべく、多くのアメリカ人がヨーロッパに留学し、印象派の表現を学習。そして19世紀末から20世紀初頭にかけて、アメリカの画家は印象派を独自に解釈するようになり、アメリカ各地で印象派が多様に展開していったのだった。

すでにふれたチャイルド・ハッサムは、いち早く印象派の技法を制作に取り入れた画家のひとりだ。パリから帰国後、ボストンを拠点に活動したハッサムは、たとえば《コロンバス大通り、雨の日》において、印象派の手法を用いて近代都市の風景を描いた。また、《シルフズ・ロック、アップルドア島》では、ボストンの北東に位置するショールズ諸島を舞台に、表情を変えてやまない海の景色を捉えている。

アメリカには、フランスの印象派の影響を強く感じさせる画家がいる一方、その様式を独自に解釈し、アメリカならではの田園風景や家庭内の情景などを描く画家もいた。たとえば、ウスターを代表する風景画家であるジョゼフ・H・グリーンウッドは、地元ニューイングランドの田園風景を、淡い色調で描いたことで知られる。ウスター近郊を描いた《リンゴ園》は、明るい色調とかすれるような筆触を用いることで、穏やかな風景を表現している。

アメリカ西部へ

印象派はやがて、開拓の進むアメリカ西部にまで広まることになる。印象派の特徴である戸外制作や、チューブ入り絵具といった持ち運びの容易な画材道具などが、さまざまな地域に印象派の手法を適応させることを可能にしたのだ。

たとえば、デウィット・パーシャルは、グランド・キャニオンを描いた作品で知られる画家だ。1901年にグランド・キャニオンへと鉄道が敷設されると、鉄道会社は宣伝のために5人の画家に同地を描かせている。パーシャルはそのひとりだ。《ハーミット・クリーク・キャニオン》においては、険しい絶壁に反射する光の表情が、素早い筆触と淡い色彩によって捉えられている。

ヨーロッパ、アメリカ、そして日本へ

印象派が広まったのは、アメリカばかりではない。ヨーロッパ各地や日本も、その例に挙げることができる。本展では、スウェーデン生まれのアンデシュ・レオナード・ソーンの《オパール》や、ジョン・シンガー・サージェントによる未完の肖像画《キャサリン・チェイス・プラット》など、欧米における印象派の多様な影響を示す作品に加えて、黒田清輝や久米桂一郎、藤島武二など、明治時代にヨーロッパの芸術にふれた、日本の洋画家による作品を展示。フランスから広がった、印象派の影響にふれることができる。

展覧会概要

「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」
会期：2024年1月27日(土)〜4月7日(日)
会場：東京都美術館
住所：東京都台東区上野公園8-36
開室時間：9:30〜17:30(金曜日は20:00まで)
※入室はいずれも閉室30分前まで
休室日：月曜日(2月12日(月・振)、3月11日(月)・25日(月)は開室)、2月13日(火)
観覧料：一般 2,200円、大学生・専門学校生 1,300円、65歳以上 1,500円、高校生以下 無料
※土・日曜日、祝日、4月2日(火)以降は日時指定予約制(当日空きがあれば入場可)
※18歳以下(2005年4月2日以降生まれ)は、3月1日(金)から4月7日(日)までにかぎり無料
※身体障害者手帳、愛の手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、被爆者健康手帳の所持者および付添者(1名まで)は無料
※身体障害者手帳などの所持者および付添者(1名まで)、高校生以下は日時指定予約不要
※毎月第3土曜日、翌日曜日は「家族ふれあいの日」により、18歳未満の子どもを同伴する保護者(都内在住、2名まで)は一般通常料金の半額(日時指定予約不要、販売は東京都美術館チケットカウンターのみ)

■巡回情報
・郡山展
会期：2024年4月20日(土)〜6月23日(日)
会場：郡山市立美術館
住所：福島県郡山市安原町字大谷地130-2
・八王子展
会期：2024年7月6日(土)〜9月29日(日)
会期：東京富士美術館
住所：東京都八王子市谷野町492-1
・大阪展
会期：2024年10月12日(土)〜2025年1月5日(日)
会期：あべのハルカス美術館
住所：大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス 16F

【問い合わせ先】
TEL：050-5541-8600(ハローダイヤル)

This exhibition was organized by the Worcester Art Museum