会場はセーヌ川の右岸の川岸。あいにく小雨が降っているが、川の向こうにはエッフェル塔が朝もやの中にそびえ立っていて、いかにもパリらしい光景が目前に広がっている。だれかが「あれ見て!」と指差した方向に視線を向けると、橋の上を数十人のモデルが整然と歩く姿が目に飛び込んできた。ケンゾー(KENZO)の2015年春夏メンズコレクションは、こんな凝った演出で幕を開けた。
最初に現れたのは、ホワイト×ネイビーのドット柄のセットアップに身を包んだパリジャン。大きめのドットのカバーオールと短めのショートパンツ、シャツには、エッフェル塔のマークがところどころにちりばめられている。それに続くのは、ペールトーンのニットとパンツを組み合わせた80’sフレーバー全開のルック。その色の着想源が“マカロン”であることは言うまでもないだろう。
中盤に入ると、ストーンウォッシュのデニムが登場。ほどよく色落ちしたトレンチコート、かなり薄いブルーのテーパードシルエットのジーンズは、やはり80年代のパリの匂い(エドウインのサムシングのCMのイメージ!)を感じずにはいられない。そのデニムに合わせた自由の女神をモチーフにしたジャカードニットは「自由の女神がアメリカ合衆国の独立100周年を記念してフランスから贈呈された」という歴史を踏まえた上で作ったのだろう。後半は、ツールドフランスを連想させるサイクリングウェアをアレンジしたルック。最初から最後まで「アメリカ人から見たパリの憧憬」を貫き通した形だ。
ここ数シーズン、80’sブームを牽引してきたケンゾーだが、象徴的な存在だったロゴ物は、サイクリングジャージーに一部見られるのみ。反対に、今回取り入れた「パリらしいパリ」は、フランスの若手ブランドの間で盛り上がりつつあるモチーフであり、そのあたりの“旬”に対する嗅覚はさすがと言える。
ケンゾーのクリエイティブディレクター ウンベルト・レオンとキャロル・リムはアメリカ人。それにしても、彼らのパリへの憧憬が、日本のそれと大差がないことが面白くてしょうがなかった。 “パリジャン&パリジェンヌ”と聞いて思い描くロマンチックなイメージは、きっと世界共通なのだろう。で、空港やレストランで冷たくあしらわれて、「現実は違う!?」ってオチがつくのだけれど……。
Text by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)