ベッドフォード(BED j.w. FORD)の2025年春夏コレクションが、2024年6月23日(日)、フランスのパリにて発表された。
今季のベッドフォードがテーマとしたのが、「Working Class Theater」。世の中の人々は、休みたくとも誰かのために働く──それをデザイナーの山岸慎平は、「綺麗だ」と形容している──。だから各々に生活に物語があって、自分の「劇場」の主人公なのではないだろうか? ひとひらの羽根が、空高く飛び立つことを想起させるように、今季のベッドフォードは、働く人々の「ドラマ」──たとえそれがどれだけささやかであろうと──に目を向け、そこに希望を託す表現を試みたものだといえる。
「働く人々」とはいっても、コレクションは必ずしもワークテイストを基調としたいのではない。長めの丈感で仕上げたテーラードジャケットやジレ、ファブリックの分量を持たせたロングコート、あるいは肩周りにボリュームを持たせたレザージャケットなど、ベッドフォードならではの流麗なシルエットを基調に構成されている。
劇場、あるいは労働に区切りを入れるのが、ベルの音である。軽やかに編み上げたニットのカーディガンやベストなどに連ねたベルのモチーフは、そういった時間の感覚をコレクションに持ち込むものだ。時間といえば、リラクシングに仕上げたレザージャケットにおいても、経年変化を経たような加工が施されている。何より、ブラウンを基調に、パープルなどが彩りを添えるカラーパレットは、ある種ノスタルジックな感覚を喚起せずにはおかないだろう。
ノスタルジーとは──何か積み重なった時間を呼び起こすように──通常はどこか重厚な雰囲気を呼び起こすのではなかろうか。ベッドフォードにおいてはしかし、ノスタルジックでありながら、ある種の軽やかさ、爽やかさを帯びている点が特徴だといえる。コレクションをひと目見て、「綺麗だ」という言葉がふと出てきそうになるのは、それゆえであろう。
たとえば、ロングコートやロングシャツをはじめ、ファブリックの丈感や量感自体は引き出しつつも、素材は薄く、軽やかだ。また、Vネックベストに用いたニットは透かし編みに仕上げ、水滴のような模様を施したシャツにはシアー素材を用いている。素材ばかりではない。刺繍を思わせる、独特の立体感を帯びた花柄のプリントを施したデニムショーツ、あるいはコーディネートにドレッシーなアクセントを添えるジレなど、素肌を見せて、身体の色気と軽快さを引き立てるアイテムは数多く見られる。
身体──働くことに、生身の体を欠くことはできない。腕を使おうが頭を使おうが、働けば体は草臥れる。そういうものだから、できるだけ体が草臥れないよう、ふとした仕草が無意識のうちに現れてくる。腕をまくるのは、そうした一例である。右利きの人ならば、むろん右袖を捲ることが多いはずだ。ここに、無意識な仕草がいかに衣服と結びついているのか、その具体例を見出せるだろう。実際にベッドフォードには、シンメトリックな仕上がりながらもアシンメトリックに腕を捲りやすいよう、内側にゴムを忍ばせたジャケットやコートを見ることができる。ささやかな仕草にドラマを見て、それを衣服という、身体とは切っても切り離せないものの形に昇華することが、山岸が表現しようとした「希望」なのかもしれない。