ベッドフォード(BED j.w. FORD)の2024年秋冬コレクションが、2024年1月21日(日)、フランスのパリにて発表された。テーマは「after (that) scene」。
「記憶されているものって、けっきょく憧れなんだと思うんですよ」──ベッドフォードのデザイナー山岸慎平は、こう語る。2024年春夏シーズンに続き、パリでの2回目となるショーを行った今季、そのコレクション製作は、自ら手がけてきたアーカイヴ、ひいては過去の自分を顧みることが起点になったという。
だから、今季のベッドフォードは、これまでに発表してきた要素を現在の視点から捉え直し、提示する。ヴァイオリンのラペルをかたどったラペルのテーラードジャケットやロングコート、色とりどりにラメ糸のきらめくレギンス、シャネルジャケットを彷彿とさせるシルエットのシャギーなカーディガンなど、その例は数多く挙げることができる。アウターは洗練されたラインを描く長めの丈感、パンツは時に細く、あるいは時に揺らめくように太く、その素材感と相まって流麗な印象を与える。
さらさらと降り積もった時間を愛でるような感覚が感じられる。確かマルセル・プルーストであったか、物語の主人公が柔らかなファブリックに手で触れると、そこから記憶が喚起されるように、織物はその手触りでもって人を触発する。だから──と強靭に接続してもよかろう──、ダブルコートやワイドパンツに用いた柔らかなツイード、ロングコートの温かなボア素材、パーカーの艶やかなスエードなど、肌理の豊かさに富んだ素材を随所に見て取ることができる。
しかし、こうして堆積した時間は、決して鈍重に凝りかたまるのではない。山岸にとって記憶が憧れと結びついている──もっと、憧れのように強い感情が作用しなければ、細やかに記憶などしないだろうことは、誰しもが頷くのではなかろうか?──ように、降り積もった時間は、一瞬、ただの一瞬、華やかにきらめく。だからこそここには、タイトなレギンスや、雪の結晶をモチーフに透かし編みで仕上げたクルーネックに用いたラメ糸、ロングシャツに用いた光沢のあるキュプラなど、光を返す素材が印象的に取り込まれている。
自身の過去を振り返るなかで山岸は、「そういえばそういうの好きだったな、その時々で手がけた衣服、これが僕の憧れたもの、びっくりしたもの、それがスタートであったな」との思いを覚えたという。その憧れに、たとえば宮下貴裕、アン・ドゥムルメステール、ドリス・ヴァン・ノッテンの3人の名前を挙げている。「僕の洋服はやっぱり憧れから始まっている」と語る山岸は、自らの記憶を顧みつつも、その記憶は折々の憧れにほかならない。記憶とは、過去に凝固したもののではなく、未来に向かって一瞬炸裂するきらめきでなくて何であろう──憧れとしてのノスタルジアとは、この謂いにほかならなかった。