映画『しあわせのパン』や、第38回モントリオール世界映画祭特別招待作品となった『ぶどうのなみだ』で、日本はもちろん世界でも高く評価されている三島有紀子監督の最新作『繕い裁つ人』(つくろいたつひと)が、2015年1月31日(土)より公開された。主人公の市江を演じるのは中谷美紀。また三浦貴大をはじめ、片桐はいり、黒木華、杉咲花らが脇を固める。

全国の劇場で初日2015年1月31日(土)から週末2日間で大ヒットスタート。初日はメイン館の新宿ピカデリー含め5劇場で満席。日曜日もその勢いは止まらず全国各地で満席の回が続出した。ロケ地でもある関西地区が特に盛り上がっており、全体のシェアのうち56%を占める盛況だ。

女性を中心に、母娘、夫婦での鑑賞が多く、初日に劇場で行った出口調査では満足度93%と口コミでも広がりそう。アンケートやSNSでは、「素敵な洋服の数々。映画の世界観に引き込まれる。感動した」「またミシンを使いたくなった」「一生モノの洋服が自分も欲しい」などのコメントが寄せられている。

本作の洋裁指導したソーイング作家の伊藤みちよは「特に、おしゃれを重ねてきて、何が自分にとって一番いいかを分かっている人、また自分にはどんな洋服が一番必要かを知りたい人がこの映画を観ると、とても感動すると思います。本物志向の人に観てほしい映画ですね。」と語っている。また、映画を見たアーティストの清川あさみは「職人とは、モノを丁寧につくるだけでなく、人の繋がりをもつくる。その仕事は、決して簡単ではない。何か大切なものを探してる人達に。」と話した。ファッション好きの人たちが、洋服の原点、洋服と人生との繋がりを見つめ直したくなるような作品になっている。

劇中では、主人公の市江が仕事服として身に着けたネイビーブルーのワンピースや、ゆきのワンピース、泉先生にささげた死に装束、中田の夜会用のスーツなど、それぞれのシーンを魅力的にみせる衣装がたくさん登場しましたね。衣裳デザインを描きあげるにあたって、共通して意識したことやこだわった点、またテーマについて教えてください。

衣装全体が甘くなりすぎないように気をつけました。甘くないけれどチャーミングでありたいと思ったので、その点にこだわりました。この映画では、本当の意味での“良い手仕事”というのが見せられたらと思いました。イージー・ソーイング的なものに見えない様に、衣装がチャーミングでありながらどこか着る人間が凛とした印象になるよう意識しました。

映画の登場人物たちは、デートや夜会など、大切なイベントに向けて新しく洋服を仕立て直し、洋服を慕い寄った人生を過ごしていましたね。伊藤さんにとって、“洋服”とはどんな存在ですか？

洋服というのは人生を楽しむためのツールの一つです。と、同時に自分自身を否応なしに表現してしまうものでもあると思います。“今日、なぜその洋服を着たのか”ということから、その人の色々な事情や背景が画として見えてくるんです。

女学生のゆきが、母の着られなくなったワンピースを手に、市江のもとへやってきたシーン。小柄な彼女に合わせて仕立て直したミニ丈のワンピースを楽しそうに着る姿が印象的でした。洋服を着るという楽しみについて、どのように考えていますか？

“この洋服はこういうもの”と決めずに、もっと自分流に楽しんで欲しいです。今こういうものが流行っているからとか、こういうコーディネートが良いですよ等という風潮は、あくまで1つのサンプルとして見て、そこに自分が取り込まれるのではなく自分なりのファッションを考えたら、もっと楽しくなると思います。

洋服を纏うことが、自分自身の発見に繋がっていくのでしょうか？

例えばコーディネート1つでも良いんです。みんなと同じ服を買っても、コーディネートの仕方で全然違うものになりますから。同じお肉で料理しても付け合せで味も違うし、ソースのかけ方でお肉が違って見えて来たりするじゃないですか、洋服もそれと似ています。

最後に、本作を通してどんなことを感じて欲しいですか。

この映画を世代関係なく幅広い人に観ていただいて、例えば「おばあちゃんのタンスの中を探してみよう」などのきっかけになったらとても素敵なことだなと思います。昔のものは素材も今と違いますし、まあ古着屋とかもありますけど、あまり手に取る機会も多くないですよね。洋服だけでなく例えばお茶碗一個でも良いのですけど、自分の家に伝わるものなどを見るきっかけになったらなと思います。それは、とても面白い扉の発見にもつながるので。この映画が「共に生きていく服もある」ということを知っていただくきっかけになれば良いな、と思います。

「繕い裁つ人」ストーリー紹介

神戸を中心に、関西でオールロケを敢行した本作は、池辺葵による人気コミックが原作の仕立て屋の物語。祖母の後を継ぎ、町の仕立て屋として働く市江のもとには、老若男女問わず多くの人が通う。思い出の詰まった洋服を、いまの彼らにフィットするように手を加え、“人生を変える一着”を作り出す。そんな市江の洋服に惚れ込んだ、百貨店の営業・藤井。市江が一から作る洋服を見てみたいと、ブランド化を提案する。

祖母から受け継いだミシンとデザインを大切にし、仕立てを続ける市江だったが、藤井の熱心なアプローチが心を揺るがす。同時に、市江に“繕い”を依頼する人々の姿から、藤井の思いも少しずつ変化していくのであった。

なお、本作の為に14年ぶりにショートカットにした中谷は、役づくりにあたり、普段ミシンはおろか裁縫もしたことがなかったにも関わらず、約1か月間足踏みミシンの練習に励み、見事習得。最終的には裁縫指導にあたった先生から「実際の職人よりも巧いかもしれない」と太鼓判を押されるほどの腕前になったという。

市江の生き方、そして彼女を取り巻く人々の洋服への思いを通して、服を大切に着るという奥深さを伝えるのも、この映画に流れるテーマの1つだ。

■あらすじ
町の仕立て屋「南洋裁店」。祖母が始めたこだわりの洋裁店を受け継いだ2代目の店主・市江。彼女が古びたミシンで作るオーダーメイド服は大人気。しかし職人スタイルを貫くため量産は出来ず、百貨店の営業、藤井からのブランド化の依頼も断り続ける。なじみの客たちは、ここで仕立てた服と共に年を重ね人生を彩る。市江はその人だけの服を繕う日々で十分だったが。

【作品情報】
『繕い裁つ人』
公開日：2015年1月31日(金)
監督：三島有紀子
脚本：林民夫
衣装デザイン：伊藤佐智子
キャスト：中谷美紀、三浦貴大、片桐はいり、黒木華、杉咲花、伊武雅刀、中尾ミエ、余貴美子ほか
配給：ギャガ
©2015 池辺葵 / 講談社・「繕い裁つ人」製作委員会