イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)は、2016-17年秋冬コレクションをフランス・パリで発表した。今シーズンのインスピレーション源は「遊牧民の生活」。コレクションの制作にあたり、実際にモンゴルに訪れたというデザイナーの高橋悠介は「かれらのシンプルな生活から生まれる遊び心や快適性を、現代社会に生きる男性に提案したかった」と説明する。
ショーは3部構成で、最初のカテゴリーは砂漠の民を連想させる民俗色の強いニットが主役。紫がかったボルドーのニットは、馬子(馬尾毛)糸のハリ感を表現したオリジナル糸をウール糸に混紡させたもので、粗野な魅力がある。 草木のグリーン、土や岩のボルドー、湖のブルー、太陽のオレンジが混ざり合った複雑なニットは、ゆったりしたリラックス感あふれるシルエットも相まって、着るだけで荒野の世界に浸れそうだ。
中盤に入ると、遊牧生活から都市生活に流れが変わる。いささか唐突にも思えるが、現代を都会で生きるには、荒野の雨風雪雹とは種類が違う様々な辛苦がある、ということなのだろう。そのスイッチの役割を果たしているのが、タイダイ風の色合いのデジタルプリントのシャツ、Tシャツ、ショートパンツのセットアップだ。このモチーフは、サーモグラフィーによる馬のアート写真で、写真家の平澤賢治の手によるもの。高橋は毎回コラボレーション相手に同世代のアーティストを選んでいるが、洋服とアートの接点を探りつつ、意識的に“キャンバス”の役割をかって出ているように見える。馬のモチーフは多彩で、馬の蹄を柄としてカットジャカードで表現したコートやジャケットもある。
また、荒野の馬との対比で、都会の馬として自転車に焦点を当てている。サイクリングジャージ、サイクリングシャツなどを、モダンなシルエットのチェスターコートに合わせ、スポーティなスタイルを提案。ラストのベーシックな型のスーツは、生地とコンストラクションから開発したシワになりにくい超軽量のスーツだ。その一方で、インナーには首元がゆったりしたスタンドカラーのシャツや、ヘンリーネックシャツを合わせており、荒野と都会の融合を試みている。「いつの時代も男とは荒野を生きるもの」ということなのだろう。
TEXT by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)