ヴァレンティノ(VALENTINO)の2017年春夏オートクチュールコレクションが発表された。マリア・グラツィア・キウリが退任し、ピッチョーリが単独でクリエイティブ ディレクターを務める最初のオートクチュールコレクションである。
一枚の布が体を覆うような古典的なシルエットのドレスは、歩くたび靡き、身体のラインに沿い、美しさのかたちを瞬く間に変える。煌めく草花の刺繍や細やかに並べられたフリルは、より一層美しさの在り方を強調している。肌が透けるシアーなプリーツは、神秘的な儚さをそれぞれのドレスに注ぐ。
色はホワイトが主流。まさに純粋無垢を体現するパレットだ。そこに優しいグリーンやピンク、時として官能的な赤が加わり女性の多面的な部分を表現している。
ヴァレンティノが守り続けてきた美のシルエットに、今シーズンは少しだけマスキュリンなエッセンスが垣間見える。それを体現したのがジャケット型の羽織。刺繍があしらわれたラペルは、私たちが知っている硬さのあるものではなく柔らかな形状だ。もはやジャケットというよりは、トレーンを引く長いショールといったほうが近いだろう。
洋服は小さな現実の積み重ねであって、ヴァレンティノが創り上げる幻想的な世界に近いものなど完成するまではないかもしれない。ジャケットはまさにその象徴的なアイテム。生地を図って、調整して、縫い付けて……。ただ、その先にある幻想的世界を一度目にすると、どうしてもその超現実的工程に目を向けたくなるのがクチュリエたち。そして彼らが創り上げるファンタジーに浸りたいと、私たちはそのクリエーションに期待してしまう。