リック・オウエンス(Rick Owens)の2019年春夏コレクションが、2018年6月21日(木)にフランス・パリで発表された。
この日は、前日までの暑さが嘘みたいに涼しい気候。なのに、リック・オウエンスのショーが始まるころには眩しい太陽が照り付け、暑くてたまらなかった。ショーの招待状は黒いマスクで、暑いながらもそれを身に着け、観客たちはリック・オウエンスの世界に入っていった。
青い煙が四角いランウェイの真ん中で上がり、たちまち会場は青い煙に包まれる。ここでこのマスクの意味を知った。色煙が会場内に広がっていくのだ。毎シーズン演出が壮大なのはみどころのひとつなのだが、今季もやはり桁違いだ。
洋服はというと、シンプルな出で立ちからのスタートだった。今季はキーワードとしてバベルの塔やタトリンのタワー塔をあげているのだが、全くその通りで、Tシャツひとつをとってもアーキテクチュアルだ。トップスには骨組みが設置され、シルクやナイロン素材のパンツは平面をボタンでつなぎ合わせたような構造。ウォッシュのデニムジャケットは、シャープなショルダーパッド入りで、へそ上ぐらいまでのショート丈とロング丈で登場している。
ブリューゲルをはじめ、多くのアーティストに描かれたバベルの塔は、完成することなく崩れさったと言われている。また、タリトンのタワーも未完成のままの作品。ここから派生した“未完成”、あるいは内装が見えてしまうようなデザインも今季のポイントだった。建築現場の足場からインスパイアされたデニムスカート、後ろが羽根のようにカットオフされたジャケットなどが登場している。
三角を繋ぎわせたような塔を想わせるモチーフは、ボトムスのフロントに大きくあしらわれたり、立体化されチャームとして採用されたり様々。それは後半にかけて立体化されていき、うろこのようなパネル構造へと変化していく。そしていつの間にか柔らかな素材へと変わり、軽量感あるメガポンチョとして提案される。
終盤は、序盤から中盤にかけて登場していたモチーフが立体的かつ大胆な構造へと変化する。その姿は服というよりはアート。しかし、これらは服の新しい可能性を追求して考察したものであり、今季の真意なのだろう。このコンストラクティブなナイロンポンチョの構造のもととなるアルミのポールは、取り外しできるもので店頭に並ぶまでに進化させるという。歴史の中で未完成のまま終わってしまった2つの作品を元にした表現から、リック・オウエンスはきっと新しい服の在り方を見つけた。