コンクールで聞いて実際に登場した曲とは、具体的には何でしょうか。
劇中の第3次予選でマサルが弾いた、バルトークの「ピアノ・ソナタ Sz.80」です。
各コンテスタントの演奏プログラムを組んでいくのは大変だったのではないですか。
恩田:本当に大変で(笑)!そもそもどうやって作ればいいのかわからなかったので、最初にたたき台を作るだけでも、ものすごく時間がかかってしまいました。
物語を書いていく中で登場人物のキャラクターを把握していくうちに、「この子はこの曲弾かないだろうな」というのが見えてくると、最初に組んでいたプログラムをまた入れ替えたりして。
一次から二次、二次から三次とコンクールが進むにつれて選曲も変わっていきますよね。
恩田:そうですね。コンクールが進むにつれてどんどん40分、1時間と曲の長さが長くなっていくので、そういった意味でも選曲は悩みました。
それでは、絶対にプログラムに入れたいと思ったこだわりの1曲はありますか。
恩田:バッハの「平均律クラヴィーア曲集第1巻・第1番 ハ長調」とモーツァルト「ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調K.332 第1楽章」だけは決めていました。モーツァルトのソナタは私がものすごくショックを受けたメロディーで。そこは決めていました。
劇中では、コンテスタント同士でプロコフィエフのコンチェルトについて語ったり、ラフマニノフについて意見を交換したりと、曲についての細かな描写も登場しますね。
恩田:あの描写は私の個人的な偏見です(笑)。
(笑)。恩田さんご自身の音楽愛がうかがえます。
恩田:音楽を聴いているとカタルシスがありますし、気持ちが上がったり、鎮静化されたりもします。暮らしていく上で、音楽は必要なものだと思いますよ。
学生時代はご自身も演奏活動をされていたそうですが、その時の経験も物語に反映されているのでしょうか。
恩田:そうですね、少しだけ(笑)。気持ちとか、少しは反映されていると思います。
原作ファン注目のポイントの1つとして、作中で登場するオリジナル楽曲「春と修羅」がどのような音になったのか?ということが挙げられます。実際に聴いてみていかがでしたか。
恩田:「なるほど、こういう曲だったんだ」と素朴に思いました。今回「春と修羅」に曲を付けてくださった藤倉大さんが原作を読んでくださって。原作に忠実に作って頂いたと思います。
「春と修羅」には1人1人が即興で弾くカデンツァ(※)パートが含まれていますよね。
カデンツァの部分も、「私そう書いたよね」という覚えがそれぞれある仕上がりで。例えば、宮沢賢治の「永訣の朝」から引用した“あめゆじゅとてちてけんじゃ”を旋律に乗せるカデンツァが登場するのですが、それもしっかりメロディーになっていて、すごいなと思いました。
※カデンツァ…曲の中で、演奏者が自由に即興的な演奏をする部分のこと。
挫折からの再起をめざす「亜夜」、妻子持ちの社会人奏者「明石」、最有力エリートの「マサル」、謎の天才少年「塵」と、コンテスタントごとに個性の異なる演奏が見て取れます。自由度の高いカデンツァの違いはどう書き分けたのですか。
恩田:各キャラクターの性格に応じて、「こういうカデンツァが好きだろうな」というカデンツァを割り当てました。
映画の中での4人の演奏は、第一線で活躍するピアニスト4人が担当しています。それぞれのキャラクターの“音”についてはどう思いましたか。
弾いてくださった4人の演奏は本当に素晴らしかった。インスパイアード・アルバムを4枚、キャラクターごとに発売することになったのですが、それだけでも映画化されて良かったです。
それでは、実際に俳優が演じるのを見て、どう感じましたか。
恩田:俳優さんも、みんなぴったりはまっていましたね。最初は松坂桃李くんがちょっとかっこよすぎるかなー、とは思いましたが(笑)。実際にはしっかり素朴な家庭人になっていて、イメージ通りでびっくりしました。
お気に入りのシーンを教えてください。
恩田:亜夜と塵の2人が月の光の中で連弾するシーンと、コンテスタントみんなで浜辺を歩いているシーンです。2つともビジュアルがすごく良かったので……映像を目にして感慨深いものがありましたね。
これまで「映像化不可能」言われ、恩田文学の集大成でもある『蜜蜂と遠雷』を、新鋭・石川慶監督が映像化に挑む。全く異なる背景を持つ4人のピアニストに音が吹き込まれる。
“実写化不可能”と言われた『蜜蜂と遠雷』の中で奏でられるピアノの音を担当するのは、河村尚子、福間洸太朗、金子三勇士、藤田真央といった、第一線で活躍する実力派ピアニスト。また、作中でコンクール曲として登場するオリジナル楽曲「春と修羅」の作曲を手掛けたのは、ロンドンを拠点に国際的に活躍する現代音楽の作曲家・藤倉大。“本物の音”を追求した、贅沢な映画音楽が物語を盛り上げる。
公開に先駆けて、2019年9月4日(水)より本作のインスパイア―ド・アルバムが発売。亜夜、明石、マサル、塵が劇中のコンクールで演奏する楽曲を収録した全4種類で用意し、劇中で演奏されるオリジナルのコンクール課題曲『春と修羅』もキャラクター別に収録する。
第43回 日本アカデミー賞では、優秀作品賞、優秀主演女優賞(松岡茉優)、新人俳優賞(鈴鹿央士、森崎ウィン)、優秀音楽賞(藤倉大、篠田大介)、優秀撮影賞(ピオトル・ニエミイスキ)、優秀照明賞(宗賢次郎)、優秀録音賞(久連石由文)にノミネートされた。