それは、例えばどんな場面でしょう?
例えば、母親役のレジーナ・キングが、旅行先で“かつら”を脱いだり被ったりするシーン。実はこの場面、原作をもとにした脚本には、最初“ショール”と記していたんです。
脚本通りこのシーンを演じた彼女は「これくらいの年齢の黒人女性は、ショールではなくカツラを身に着けると思うわ」と僕に伝えて、そしてそれが何故なのかも理由を説明してくれました。
僕は「いや、ここは原作にも書いてあるからショールだろ」と言えるわけありませんよね。だって黒人の中年女性の気持ちなんて一生分かりっこないから(笑)なので彼女のリアルな意見は非常に貴重だと感じて、その後、実際に脚本を変更したんですよ。
そういった意味で、今回の現場では、特に女優たちが、キャラクターの個性を引き出してくれてくれていたのだと感じています。僕のこれまでの経験だけでは、到底たどり着けなかったものだから。
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物語を彩るレトロなファッションにも注目したい。原作の情報をもとに作られた衣装やメイクは、当時の様々なシーンにおけるファッションを忠実に再現したもの。
例えばデパートの香水売り場で働くティッシュのお仕事スタイルは、本作と同時期を描いた70年代映画『ティファニーで朝食を』のオードリー・ヘップバーンからインスピレーションを得た。普段はカールした髪の毛を1つに纏めたヘアスタイルに、エレガントばドレスを合わせたスタイルは、上品で洗練された印象を与えてくれる。
またティッシュの純真なキャラクター像を思わせる、白のケープを羽織った可愛らしいデートスタイルや、“ハイクラス”に属するティッシュの恋人・ファニーの家族が纏う仕立ての良さそうなジャケットやワンピースなど、衣装からそれぞれのキャラクター像を色濃く反映しているのが伺える。
レジーナ・キングは、『ビール・ストリートの恋人たち』での演技が高く評価され、第91回アカデミー賞&第76回ゴールデングローブ賞とダブルで助演女優賞を受賞した。なおアカデミー賞でレジーナはオスカーデラレンタの真っ白なドレスを着用した。
その他、アカデミー賞においては、作品賞、脚色賞でノミネート。ゴールデングローブ賞においては、作品賞(ドラマ部門)、脚本賞(バリー・ジェンキンス)でノミネートを受けた。
1970年代、ニューヨーク。幼い頃から共に育ち、強い絆で結ばれた19歳のティッシュと22歳の恋人ファニー。互いに運命の相手を見出し幸せな日々を送っていたある日、ファニーが無実の罪で逮捕されてしまう。二人の愛を守るため、彼女とその家族はファニーを助け出そうと奔走するが、様々な困難が待ち受けていた…。
映画『ビール・ストリートの恋人たち』
原題:If Beale Street Could Talk
公開日:2019年2月22日(金)
監督・脚本:バリー・ジェンキンス
出演:キキ・レイン、ステファン・ジェームス、コールマン・ドミンゴ、テヨナ・パリス、マイケル・ビーチ、デイヴ・フランコ、ディエゴ・ルナ、ペドロ・パスカル、エド・スクレイン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、レジーナ・キング