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『ビール・ストリートの恋人たち』“小説を映像化するまで”の制作秘話をバリー・ジェンキンスが語る

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映画『ビール・ストリートの恋人たち』が、2019年2月22日(金)より全国の劇場で公開される。監督を務めたのは、映画『ムーンライト』でアカデミー監督賞を受賞したバリー・ジェンキンス。

『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスが、J・ボールドウィンの小説を映画化

『ビール・ストリートの恋人たち』“小説を映像化するまで”の制作秘話をバリー・ジェンキンスが語る | 写真

原作は、アメリカの黒人文学を代表する作家ジェームズ・ボールドウィンによる小説『ビール・ストリートに口あらば(If Beale Street Could Talk)』。『ムーンライト』と同じく黒人に関する人種問題に切り込んだ作品で、70年代のニューヨーク・ハーレム地区を舞台に、レイプ疑惑で投獄された恋人のファニーを救うために奔走する少女ティッシュとその家族を描いている。

監督のバリー・ジェンキンスは今作でも脚本を兼任しており、2013年夏には既に『ムーンライト』と並行して執筆を進めていたという。また、製作をブラッド・ピット率いる映画製作会社「プランBエンターテインメント」が、劇伴を若手作曲家のニコラス・ブリテルが、『ムーンライト』から引き続き勤めている。

バリー・ジェンキンス監督にインタビュー

バリー・ジェンキンス インタビュー|写真40
©︎Yoshiyuki Uchibori

映画『ビール・ストリートの恋人たち』を描いたバリー・ジェンキンスにインタビュー。原作となるジェイムズ・ボールドウィンの小説の大ファンとしても知られる彼は、そのストーリーの世界観を崩さないため、忠実に映像へと落とし込んだという。

原作のバックグラウンドに触れながら、小説を映像化するまでの制作秘話について話しを伺った。

<“ビール・ストリート”が象徴すること>

バリー・ジェンキンス インタビュー|写真25

原作、そして映画のタイトルに選ばれた“ビール・ストリート”について教えてください。

“ビール・ストリート”というのは、アメリカ・テネシー州のメンフィスに位置するストリートの名前です。この場所は、アフリカ系アメリカ人によって作られた音楽“ブルース”発祥の地なんです。ブルースからジャズが派生して、アメリカから世界に発信できる数少ないアートの生まれた街としても知られています。

当時圧倒的に不利な状況下に置かれていた黒人たちでしたが、彼らの心の中には、美しい音楽を生み出すパワーが宿っていたました。そういった意味でも、このストリートは、彼らの“強さ”を象徴するものであるともいえるでしょう。

バリー・ジェンキンス インタビュー|写真22

しかしジェイムズ・ボールドウィンの原作では、メンフィスではなく“ニューオリンズ”にあるビール・ストリートと記載されていました。それは何故なのでしょう。

実は何故彼がニューオリンズと記載したのか、それはアメリカ人にすら分からないことなのです。けれど僕は、これも彼にとってビール・ストリートが何かの“象徴”だったのではないかと感じています。

例えば、 “1つのファミリーの話”を意味するとか。物語で描かれた家族は辛い状況下に置かれていたけれども、その大きな愛でお互いの心を救い合った。形は違えど、世界中にはそういった家族のストーリーは沢山存在するから、どの地域に行っても“心の中にあるビール・ストリート”は見つけることが出来ると思うのです。それはアメリカだけではなくて、東京や京都、広島だとしてもね。

<小説から映画に>

バリー・ジェンキンス インタビュー|写真8

実際に小説を映画に落とし込む際に、どのようなステップを踏まれましたか?

原作では、登場人物たちの“内なる人生”というものが良く描かれていました。彼らの感じた音や匂いというのも、文字を通して僕の頭の中に届いてきたというか。だから、僕が実際に必要だった作業というのは、ボールドウィンが僕に与えてくれた“内なる経験”というものを、音や映像を駆使して“外”に作りだすことだけだったのです。

物語は19歳の少女ティッシュの目線で描かれます。

主人公であるティッシュという19歳の少女をどのように映し出すか、ということは特に気を使いました。原作を通して感じたことは、彼女は不平等な社会に対して、激しい憤りを感じていないんですよね。むしろ弱い。何故なら彼女は、あまりにも若すぎて、何かを恨むような根深い感情を持ち合わせていなかったからです。

バリー・ジェンキンス インタビュー|写真12

複雑な問題を取り扱う一方で、美しいシーンに溢れているのが印象的でした。

ティッシュのピュアな視線を通すことで、若者たちのイノセントなロマンスを描いているからでしょうね。確かにこの作品は、アメリカの社会問題を映してはいるけれど、そこにフォーカスした“悲劇に満ちた”ストーリーにはしたくなかった。観客を暗いトラウマの中に沈めるのではなく、あくまで彼女の目線を通すことで、少しでも希望のあるストーリーを描きたかったのです。もちろん原作の世界観を壊さない程度にね。

初めて恋人と愛を交わした日のこと、愛する人が自分のことを“美しい”と言ってくれた日のこと。19歳の少女の視線は、理不尽な世の中ではなく、大切な人との愛おしい思い出に注がれていきます。それは彼女が未来に希望をもつ糧となり、物語に明かりを灯します。

もちろん彼女は、その歪んだ社会システムによって奪われてしまった大切なものがあるけれど、この物語に潜む悲しみは、登場人物たちの持つ背景から少しでも汲み取ってくれさえすれば良いと思っているのです。

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この映画の中には、ご自身の経験は投影されたキャラクターはいらっしゃいますか?

この映画に関して言うといないですね。この物語は女性が核となっていますから。僕の個人的な経験と作品が結びついていない場合、キャラクターと近い立場に位置する役者勢に自由を与えるんです。僕の書いた脚本のシーンや台詞に違和感があれば、その意見をオープンに取り入れるようにしていました。

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