ディオール(DIOR)の2019-20 秋冬 オートクチュール コレクションで表現したのは、ムッシュ ディオールが“究極のエレガンス”と称した黒の世界。
黒の魅力とはエレガンスの極みでありながら、同時にシルエットを美しく見せることだとマリア・グラツィア・キウリは語る。その考えのもとマリア・グラツィアは、コレクションを通して、「クチュールの世界では、自分を美しく見せるシルエットを身につけられるのだ」というメッセージを、世界中の女性たちに届けようとした。
メッセージを強固にする芯の部分には、建築家バーナード・ルドフスキーの考察が存在する。それは女性の身体をある一種の“建築物”として捉えること。今季のクリエーションでは、柱の役目を果たす女性の立像“女性柱”をインスピレーションに、ドレスやジャケットを仕立てている。
建築的と謳ったシルエットのベースは、かつてムッシュ ディオールが世界に衝撃を与えた、エレガントなボリュームシルエット。絞ったウエストから、裾にかけて大きく広がる「ニュールック」のようなラインが、あらゆる素材やディテールの組み合わせで登場している。
しかし、当時と異なって、装いはまるで羽根が生えたかのように軽やかだ。なぜなら、マリア・グラツィアは、ライトな佇まいであることを常に意識して今季のクリエーションを行っていたから。
身体と呼応するアーキテクチュアルなドレスたちは、黒であるがゆえ尚更、クチュールならではの美しいシルエットを実現し、マリア・グラツィアの求めるライトさを纏うことでエレガンスを強調する。
マリア・グラツィアの思惑通り、建築的なドレスやガウンは、決して重厚なものではなく、ライトに魅せることで、強くも儚い女性像を明確にしている。今回は最も象徴的なクリエーションからなるキールックをピックアップし、製作の舞台裏に迫る。
今回のオートクチュールを語る上で、フェザーの存在は欠かせない。ボリュームシルエットをライトに魅せるため、マリア・グラツィアは小さな羽に想いを託した。
軽やかなフェザーのエンブロイダリーを施したイブニングガウンも、羽の魅力を宿した1ルック。羽根細工を担うアトリエ「ルマリエ」にて、800時間もの時間を費やして完成した。小さな羽をひとつひとつオーガンザにあしらうことで、ボリュームを出し、メゾンのアイコニックなシルエットを表現している。
ライトな雰囲気を醸す手段として、繊細な刺繍も効果的に用いている。肌とのレイヤードによって生まれるエアリーなエッセンスは、黒のエレガンスに必要不可欠となった。