読書家としても知られる恩田さんですが、年間の読書量はどれくらいでしょうか。
300冊……ちょいくらいでしょうか。
かなりの量ですね。読書好きになったきっかけは何ですか。
何かきっかけというよりは、子供の頃から読書が好きだったのです。親も絵本とかよく買ってくれて、家に本がいっぱいあったから、というのが大きいかもしれません。
では、子供の頃に読んだ本で印象的だった作品は何ですか。
あまりにもいっぱいありますね……(笑)。でも、1つ挙げるとすれば、ロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』。「この話には作者がいる」ということを最初にすごく実感した作品ですね。ロアルド・ダール、という人がこの話を書いたんだ!という風にあらためて思ったのです。
作者の存在を意識した作品、ということですね。
はい。ロアルド・ダールは児童文学だけではなく、短編小説もたくさん書いている人なのですが、他の作品も色々読みまして。「この人は大人の小説も書くんだ」と、後になってわかった覚えがあります。
読書好きが高じて、文章を書くことも好きになったのでしょうか。
本を読むことは好きなのですが、書くことはそんなに好きではないかな……と、最近思いました(笑)。やはり仕事になってしまうと、というのはありますね。
インターネット、映画などたくさんの娯楽が溢れているなかで、読書ならではの魅力とは何だと思いますか。
娯楽の中でも読書って、1番能動的なものですよね。ページを開いていって、読まない限りは絶対に始まりもしなければ終わりもしない。自分から働きかけなければいけないものだと思うのです。
なおかつ、能動的になるということは、ある意味で読者も物語を作っているというか、1対1で参加しているのではないかとも思っていて。そこは読書ならではの面白さだと思います。
読者も物語に参加する。読者の想像が、物語を作っていくということでしょうか。
そうですね。例えば『蜜蜂と遠雷』だったら、読んでいる時に頭の中で鳴っている音は、みんなそれぞれ違うと思うのです。逆に言うと、1人1人が全然違う音を、自分の中で鳴らすことができるのは読書ならではの経験。自分の音を鳴らす、という能動的な行為をすることによって、物語の中に参加しているんですよ。
以前、小説については「エンタメ至上主義」だと仰っていた恩田さん。小説における“エンタメ”性に欠かせない要素とは?
読者を楽しんで貰うことでしょうか。まず純文学vs“エンタメ”文学、という対立構造があるとすると、純文学の人は文学のために、もしくは、自分のために物語を書いている。でも、“エンタメ”文学を書く人は、読者のために書いていると思うんですよ。
読者を楽しむ物語を書くにあたり、何か意識したり参考にしたりするものはありますか。
……これまで自分が読んできた色々な作家さんの本でしょうか。今まで自分が読んできたものの中にあるのではないかと思います。
では、作家として、変わらない核の部分はご自身でどういうところにあると思いますか。
やはり、子供の頃の自分が読んでがっかりしないようなものを書くことです。
実際に作品を読んでがっかりされた経験もあるのですか。
はい。たとえば、好きな作家を追いかけてずっと読んでいたけど、だんだん作品が面白くなくなっていってしまったとか。あとは、晩年具合が悪くなって良いものを残せなくなる場合もありますよね。
でも、それで「ああ、つまんなくなっちゃったな」って読者に落胆させるようなものを書きたくない、という思いはあります。
物語のアイディアはどういう時に浮かぶのでしょうか。
本当にきっかけは色々で、その時によって全然違います。たとえば映画を見て、「私だったらこういうラストにしないな」と思ったり、新聞記事を読んでいて面白いな、と思ったりとか、そういうところですかね。
日常の中からアイディアを得ているのですね。
そうですね。逆に言うと、何かネタないかなっていつも探しているようなところがあって。特に意識せずとも探しているのだと思います。
最後に、ファッションプレスの読者におすすめの本を教えてください。
ファッションが好きだったら……猪ノ谷言葉さんの『ランウェイで笑って』という漫画があります。ファッションデザイナーを目指す男の子と、ファッションモデルを志す、とても背が小さい女の子のお話で。すごく面白いし、ファッション好きにはおすすめです。
芳ヶ江(よしがえ)国際ピアノコンクールは「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」というジンクスをもち、近年高い注目を浴びている。ピアノの天才達が集まるコンクールの予選会に、若き4人のピアニストが現れる。
7年前の突然の失踪から再起を目指す元・天才少女、栄伝亜夜。“生活者の音楽”を掲げ、最後のコンクールに挑むサラリーマン奏者、高島明石。人気実力を兼ね備えたマサル。今は亡き“ピアノの神”からの「推薦状」を持つ謎の少年・風間塵。熱い“戦い”を経て、互いに刺激し合い、葛藤し、成長を遂げ”覚醒”していく4人。その先に待ち受ける運命とは?
【映画詳細】
映画『蜜蜂と遠雷』
公開日:2019年10月4日(金)
原作:恩田陸「蜜蜂と遠雷(上下巻)」(幻冬舎文庫刊)
監督・脚本:石川 慶
出演:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士、臼田あさ美、福島リラ、眞島秀和、片桐はいり、光石研、平田満、アンジェイ・ヒラ、斉藤由貴、鹿賀丈史、ブルゾンちえみ
配給:東宝