ザ・リラクス(THE RERACS)のデザイナー倉橋直実とディレクター倉橋直行、二人の出会いは高校。高校時代に二人で夢中になったアントワープ系デザイナー。様々なメゾンの服と古着を着て楽しんだ大学生活。いつか自分たちのブランドを作りたいと思い、それぞれの職種をアパレルと小売りに分けて挑んだ社会人生活。そうした過程を経て、2010年秋冬、ついに自身のブランドを立ち上げた。産地の職人と話し合いを重ねることで開発した圧倒的な素材と品質感、時代を捉えたしなやかなデザインを武器に、シーズンを重ねるごとに注目が高まってきている。デザイナー、ディレクターに話を聞いた。
Interview by 増田海治郎/ファッションジャーナリスト
直実:デザイン画は鉛筆で書いているのですが、これまではトンボかアメリカのブラックウイングを使っていました。ブラックウイングは色が濃くて使いやすいですし、作家や建築家などのクリエーターが使用していたというストーリーにも惹かれるところがあります。
こちらは、買ったはいいけれどもったいなくてまだ使っていないのですが、ドイツのファーバーカステルの「パーフェクトペンシル」です。伝統的な世界最古のボールペンであり、鉛筆の進化型で、鉛筆削りと消しゴムが一体になっているのもいいですね。
直行:3本セットで2万円以上するので簡単に使えるものではありませんが、デザイン画は大切な最初の一歩なので、鉛筆にはこだわりたい。様々なボールペンやシャープペンも試しましたが、鉛筆は筆圧が表現できるんですよ。
直実:そうですね。デザイン画は、男性用と女性用でそれぞれ用意した人間の骨格をプリントした用紙に鉛筆で書いていきます。
直行:僕が絵の時点で色をつけるのがイヤなんです。トレンチコートを描こうとすると、高い確率でベージュ色をつけますよね。彼女のデザイン画をもとに、自分がマーチャンダイジングする時に、色が先についていると他の選択肢が見えなくなってしまう。フラットな状態で全体のディレクションをしたいのです。
直行:そうですね。そういう抽象的なことは一切しません。デザイン画は人体に対してのシルエットを表現するもので、パターンはそれを形にする精密定規。僕がそこにテキスタイルを載せていくという流れですね。
*マッピング/アパレル企画でいうマッピングは、欧米のコレクション情報、流行色、最新素材、世情などをもとに、次シーズンの企画のヒントを探す作業のことを主に言う。
直行:これまで企業にいたときはトレンド情報をもとにしたマッピングをやっていましたが、それだけだと結局は旬を取り入れただけのブランドになってしまう気がするんです。彼女にも極力フラットな状態でデザインしてほしいので……。
直行:いや、始まりはテキスタイルからです。これまで集めてきた1万以上あるスワッチ(素材見本)から、300、100、50、30と絞り込む作業を4回くらい繰り返します。この作業は二人別々にやるのですが、不思議と最後に残るのはお互いほぼ同じなんです。それで「こんな素材でこんなアイテムを作りたい」となって、デザイン画、パターン、テキスタイル開発を進めていく流れです。いわゆるクリエーターブランドとはちょっと違う作り方かもしれないですね。
直実:ブランド自体が、「マーケットになくて自分たちが欲しいものを作りたい」という思いからスタートしているので、パンツなら私たちが考える完璧なパンツ、次はトレンチコート、ピーコートとシーズン毎にひとつの“リラクスの基本”を作っていきたい。2013SSでは自分たちが今できる最高のトレンチコートができました。
直実:用途によって使い分けていますね。デザイン画は鉛筆で手書きですが、プリントやチェックなどの柄組み、ボタンやピンバッチなどの付属類のデザインと指示書などにはイラストレーターを使いますので、両方です。トワルは手で創るし、パターンのライン取りはPC。逆に全ての作業をPCでやってしまうと味気ないものになってしまう。特に意識したわけではありませんが、アナログとデジタルをバランス良く使い分ける今の形に落ち着きました。
直行:ピンバッチをブランドのアイコンにしているので、立ち上げ当初からオリジナルで作っています。1年前に新たに作ったイカリ型のピンバッチは、真鍮の型を作り、6枚パネルで抜いていて、立体的な3層構造になっています。袖につける小さいリボンは、オリジナルの型を宝石の職人さんに作ってもらっています。ボタンはメタルと水牛をそれぞれオリジナルで作っていますが、このボタンホールの間にイカリマークを入れたボタンは、水牛屋さんで直に作ってもらっています。
直行:水牛専門のボタンの職人さんという意味です(笑)。大手の付属屋さんに頼めば全て揃うかもしれませんが、それだと中間のコストが入ってしまうので、専門の付属屋さんに頼めば良いモノを適正価格で仕入れることができます。また、作る人と直に会話すれば、その分野に対する知識が当然深まるので、より良いモノを作れるメリットもあります。