コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン(COMME des GARÇONS JUNYA WATANABE MAN)の2021年春夏コレクションが発表された。
コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マンが今季テーマにしたのは、“本”。デザイナーの渡辺自身の身の回りにある本──それは『Dr.スランプ』のようなコミックから、『PLAY BOY』といった雑誌、そして絵本やレシピ本まで──、それが“もの”として存在する魅惑を、衣服として表現した。
コレクションのベースにあるのは、ブランドに通底するワークテイストのウェアだ。デニム素材でゆったり目に仕立てたセットアップや薄手のニットは、身頃やスリーブなどに、試行錯誤の跡を残すかのように多数のステッチを這わせた。アクセントとしてはカジュアルな部類に属するステッチは、ここでは紙の上に残った筆跡を思わせ、その幾何学的な形態はむしろ思考の明晰な跡のようでもある。
チェコの絵本『Alphabet』のデザインや鮮やかなテキスタイルを配したストライプシャツに見るように、異素材の切り替えやパッチワークも多用された。細かなチェックやストライプ、無地など、多彩な素材で構築したジャケットは、1つ1つの布地は軽やかながらも、ふっくらと厚みのある印象を与える。
また、色鮮やかな看板を多数コラージュしたようなプリントTシャツは、ある意味、素材感の違いを消去した平坦なパッチワークだともいえよう。いずれも、1枚の平面をなす布地に、単調さを払拭する視覚的な立体感が与えられている。
『Dr.スランプ』コミックのページをプリントした半袖シャツ、レシピ本から引いた魚のグラフィックを大胆に配したTシャツ、Helvetica書体の本にちなんで“H”の文字や本のタイトルをあしらったオレンジのブルゾンなどは、いずれもシンプルな作りだからこそ、引用したモチーフが際立つ。また、足元に合わせたニューバランス(New Balance)のスニーカーをはじめ、リーバイス(Levi's)やザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)などとのコラボレーションも行なった。
ものとして存在する本とは、毎日開かずとも、本棚にあるだけで自分を形作るものだ。それは、手にしたのちに頻繁には着なくとも、クローゼットにあれば、たしかに〈わたし〉の一部をなす衣服とよく似ているのかもしれない。