コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)の2021年春夏コレクションが、2020年10月19日(月)、東京・南青山にて発表された。
川久保玲は、今季、“大きなエネルギーを生む人間のピュアな心”に着目したという。ピュアな心があれば、良いことも悪いことも感じられる。心がざわつく。でも、そんな感情の動きが、大きなエネルギーを生み出すのではないかーー?と考えた。
至ったテーマは「不協和音」。無垢な心の中で、相反することが犇めき合う複雑な感情とその根源を、創作のインスピレーションとした。
紅いライトに照らされた会場は、東京の路地裏に入ってきたかのような、薄汚れた武骨な壁が演出されている。細い壁の合間をかいくぐるようにして、ゆっくりと優雅に登場するモデルたち。彼女たちは、まるで中世ヨーロッパの貴族たちを彷彿とさせるドレスを身に着けて登場する。
すべてがドレスルックで構成されるコレクション。ロココ、エンパイア、クリノリンなど、かつての女性貴族たちが身に着けた豪華絢爛なスタイル全てを贅沢に振り返るみたいで面白い。そこには、当時のレースやフリルといった装飾はなく、代替の飾りとして、ケミカルな素材や派手なプリントが用いられている。
派手なプリントの中には、プレイ・コム デ ギャルソンを想起させる“アイ”モチーフやディズニーのミッキーマウス&ミニーマウス、ベアブリックが採用され、ストリート感を助長するスプレーアートまでもが施されている。
また、最も象徴的なクリア素材は、何層にも重なる繊細なチュールから、上質なウール生地まですべてを覆いつくす。あえて無造作に寄せ集められたシルエット、黒と透明の編み込みで作られた格子柄、まるで積木をくっつけたかのように立体的なパターン、……クラシックなドレスとは全く相いれないディテールの数々は、ピュアな心から生まれた膨大なエネルギーを現すかのように大胆不敵だ。
一方で、純粋な心を率直に感じ取れるモダンなディテールもある。折り紙風の花や赤いドット柄がその好例。そして、最後に登場した、ベージュとクリアカラーだけで表現された2体のルックは、複雑な感情の行きつく先、原点回帰すべき心にあるのは“無垢”だということを表現しているかのようだった。
感情の「不協和音」が生む不安定な感覚は、一概に悪いものではない。楽しいと感じられることも、苦しいと感じられることもあるというのは、素敵なことだ。ピュアな心を持ちつづけた先には、ハッピーエンドが待っているのだと教えてくれる今季は、きわめてポジティブな考えに満たされたコレクションなのだろう。