エム エー エス ユー(M A S U) 2021年秋冬コレクションが、六本木のシアターレストラン「金魚」で開催された。演出を担当したのはクリエイティブレーベル「ペリメトロン(PERIMETRON)」のShu Sasaki。
天井から幾重もの布切れがダラダラとぶら下る不気味な通路を抜けると、周りをぐるりと見渡せるほどのコンパクトなシアターへと通された。普段はシアターレストランとして機能しているこの場所には、いつものようにゆったりとした椅子が用意されていて、それはこれから演劇や映画を鑑賞するかのような佇まい。始まりの合図と共に投影されたノスタルジックなショートフィルムは、今から始まるショーの“物語”を来場客へと予感させるものだった。
テーマに掲げたのは「codes」。過去にヴィンテージショップに勤めるほど、大の古着好きであるデザイナーの後藤愼平が、歴史的にも男性服についてまわるコード=固定観念を、フラットな視点で見つめ直したコレクションとなる。
本来ファッションというのは楽しむべきものなのに、いつから大人は服の持つ役割や意味に制限されてしまうのだろうか…?冒頭の映像で登場した少年が、自分の好きな“ティアラ”を纏って遊んだように、コレクション全体には、そんな子供のようにピュアな感性が随所に落とし込まれているのが印象的だ。
ランウェイに現れたのは、「マスキュリン」や「マッチョイムズ」といった言葉がしばしついて回る男性服――のイメージ像を払拭させるほど、性差の垣根を超えたワードローブ。不規則に散りばめられたラメに、ハート型のメタルスタッズを連ねたクローバー模様、エンジェルモチーフ、マダムチックな花模様が交差するだけでなく、洋服自体にもプリーツスカートをドッキングさせたルックが登場するなど、次々と意外性のある組み合わせが披露されていく。
またシフォンやファンシーツイードといった、女性的な素材使いも観客の視線を奪った。本来男性的なワークウェアのひとつであるジャンプスーツは、ドット柄のシアー素材で再構築。また映像にも登場したポップコーントップスは、メンズウェアとして提案され、首元にスカーフを飾ったり、ベルトループのないコンフォータブルなワイドパンツをス合わせたりと、自由なスタイリングを楽しんでいる。
これらのユニークなアプローチは、ヴィンテージを研究しつくした後藤だからこそ、モダンな空気にフィットさせているに違いない。これまで洋服の歴史を紡いできたコードの1つ1つをつまみ上げ、まるでゲームを楽しむかのように、裏返し、ひねり、軽妙に意味をすり替えていく。そこで誕生した洋服は、これまでの男性服のコードに属すことのない、実に軽やかで無邪気な空気を内包しているのである。