やさしくも儚く中毒性のある声と、どこか懐かしくまどろむように心地よいメロディーライン、穏やかながらも狂気を感じさせる独特の音楽で聴く人を魅了している、にしな 。
デビューした2021年に、スポティファイ(Spotify)の次世代アーティスト応援プログラム「レーダー:アーリーノイズ 2021(RADAR:Early Noise 2021)」に選出、その後も「U+」「夜になって」「debbie」「スローモーション」と立て続けに話題の楽曲をリリースしている、いま注目のミュージシャンだ。
そんなにしな に、インタビューを敢行。新曲「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」や最新アルバム『1999』の制作秘話から、ミュージシャンとしてのキャリア、ファッションと音楽の関係についてまで、ボリュームたっぷりに話を伺った。
■新曲「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」は、どのようにして生まれたのでしょうか?
まず初めに、曲のタイトルである「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」というワードが、急に思い浮かんだんです。「この言葉を使える曲を作りたい」と、なんとなく世界観をイメージしていた時に、頭の中に出てきたのが映画『千と千尋の神隠し』のワンシーン。千尋のお父さんとお母さんが中華屋でご飯を食べて豚になっちゃうシーンと、「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」というワードがすごくマッチしていたので、そこから世界をより深めて書いていきました。
■これまでの作品と比較すると、歌詞もメロディーも異色なテイストに仕上がっている1曲だと思います。
そうですね。今回は、不思議で変だけど、やみつきになる感じの曲を作ってみました。テレフォンボイスのような声にボイスチェンジして歌っているパートが、特に気に入っています。1番は“まっさかさまさ”、2番は“よーこそ世界へ”という歌詞の部分ですね。
■歌詞にある“まっさかさまさ”など、にしな さんといえば、独特のワードセンスも印象的です。こういったフレーズは、瞬間的に思い浮かぶのですか?
曲を作るときに、突発的に思いつくというよりは、「違和感があるけど可愛い」みたいな言葉を書き留めておくことが多いです。日常を送るなかで生まれてきた印象的な言葉をキャッチしておいて、曲を作る時に歌詞に盛り込んでいます。
■キャッチーなワードをストックしておき、それを使って、歌詞を考えていくのですね。
はい。ただし、自分が「好き!」という感覚的な言葉をつなぎ合わせるだけだと、自分が「伝えたいこと」をリスナーに届けることができない。なので、曲全体の歌詞を作る時は、「伝えたいことが、本当に伝わるのか?」という思考を巡らせた上で、“感覚的”に使いたい言葉と“論理的”に使うべき言葉のバランスに気を付けています。
■テーマがきちんと伝わるように、感覚的なアイデアだけでなく、論理的な思考を織り交ぜて、歌詞を考えているのですね。曲のテーマという観点でいくと、にしな さんは、これまでラブソングを多く手掛けてきました。<愛>というテーマを描き続ける理由はあるのでしょうか?
意識的に愛というテーマを描こうとしているわけではなくて。どこを切り取っても、愛が出てきちゃう、というイメージです。家族・友人・恋人…何について描こうとしても愛が中心にあるし、愛の反対側にあるはずの“嫌い”という感情でさえも、愛があるからこそ生まれるものなので。
■<愛>というテーマをはじめ、リスナーに伝えたいことは、いつもどこから生まれてくるのでしょうか?インスピレーションの源になっているのは、何ですか?
自分の中にある感情。それから、人から聴いて共感して自分の中に取り込んだ気持ち、ですかね。そこをベースにしつつ、少しずつ視野を広げているところです。
「ヘビースモーク」は、視野を広げるきっかけになった曲。それまでは、「自分に対する気持ち」を書くことが多かったんですが、「ヘビースモーク」という曲から「誰かに対する気持ち」を書き始めたんです。自分だけを見つめないで、外の世界を見つめるようになったら、「この曲が好き」と言ってくれるリスナーが増えて嬉しかったです。
■アーティストとして視野を広げている最中なのですね。7月には、ニューアルバム『1999』もリリースします。
にしな の色んな側面を見てもらえるアルバムになるかな、と思っています。「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」のようにちょっと面白い曲があったり、しっとりとしたバラード曲があったり。1枚で、様々な世界観を楽しんでいただけると思います。
■タイトルの『1999』には、どんな意味が込められているのですか?
私は1998年生まれなんですが、去年メジャーデビューしてから1年が経ち、歌手として1歳になったなという意味で、1998に1をプラスした『1999』と名付けました。
あと、1999年といえばノストラダムスの大予言があった年。もしも今、そういう予言があったら、戦争も無くみんなが自分なりに幸せに過ごせるんじゃないかなと思って、希望を込めて『1999』にしました。
■世界の終焉を予言した「ノストラダムスの大予言」を、ネガティブなものではなくポジティブなものとして捉えるというのは、とてもユニークな発想ですね。
“もしかしたら明日世界が終わるかもしれない”。それって、すごく悲しいし怖く聞こえるけれど、もしも今日が世界最後の日だとしたら、みんなが嫌いな人のことではなくて、好きな人のことを想って生きると思うんです。世界が終わる日は、もしかしたら人類史上一番幸せな日になるかもしれない…そんなアイデアから『1999』というタイトルにしています。
■にしな さんと言えば、東京コレクション(楽天ファッション・ウィーク)のPVに「スローモーション」が起用されるなど、ファッションシーンでも注目を集めています。ライブやMVの衣装は、どのようなことを意識して選んでいるのでしょうか?
選択肢があるのなら“全て試したい派”なので、衣装はいろんなものを試着してから決めるようにしています。最初に見た時のイメージと、実際に着てみた時のイメージが、大きく変わることもあるので。ライブの衣装に関しては、見た目のイメージも大切ですが、ギターを弾くので動きやすさや着心地の良さも重視しています。
■にしな さんが、音楽とファッションのつながりを感じるのは、どのような時ですか?
最近よく思うのは、洋服をメンズライクに着たい時と、女の子らしく着たい時があるように、曲を書いたりステージに立ったりする時にも、自分の中には男女のバランスがあるということ。バランスはその時々によって変わるのですが、自分の内面が、音楽にもファッションにも同じように表れているなと感じます。
■プライベートでは、どのようなファッションを楽しんでいますか?
割合で言うと、カジュアルでボーイッシュな方が多いです。古着も好き。ライブやレコーディングの日は、ジャージみたいな服装ですが(笑)
■最近気になっているブランドやファッションアイテムはありますか?
憧れがあるのは、メゾン マルジェラ(Maison Margiela)。バランスの良い刺々しさに魅力を感じます。最近は、ヤンヤン(YanYan)も可愛いですよね。撮影とかでたまに着させてもらって、ニット帽とかも可愛くて。あとはスタイリストさんにおすすめしていただいたフィル ザ ビル(FILL THE BILL)というブランドの洋服も気に入っています。アイテムとしては、アームカバー、ファッションとして楽しめる伊達眼鏡、帽子にチャレンジしたいです。
■いろんなテイストやブランド、アイテムに挑戦していますね。
さまざまな音楽にチャレンジしたいと思っているのと同じように、ファッションもいろいろ試したいタイプなので。
■今日、着用している衣装も素敵です。
黄色のワンピースは、ベルパー(BELPER)のもの。インナーとショートパンツはコトハヨコザワ(kotohayokozawa)、スニーカーはナイキ(NIKE)です。女の子っぽさとカジュアルさを融合して、アクセサリーでカチッと締めているのがポイント。あとワンピースのイエローは、私の今年のラッキーカラーなんです。