キディル(KIDILL)の2023年春夏コレクションがパリで発表された。
「誰にでも、ファッションや音楽、アートでも、あるいは自身の感性を揺れ動かすカルチャーに惹きこまれた“初めて”の瞬間がある。」そう語るのは、デザイナーの末安弘明。最初期のパンクや映画黎明期のホラームービー、自由を志向する少年たちの精神を活写したスケートビデオなど――本質的に感銘を受けたものを思い浮かべた時、それは何十年経った今も色褪せることなく彼の精神の中核に結びついていたという。
“昔から変わらず好きなパンクの世界”を組み込み、これまで以上にキディルを形作るメンタリティに従った今シーズン。タイトル「HELL HAUS」には、その不穏なムードだけでなく、末安にとって永遠のインスピレーションが同居した家=揺るがない彼自身の精神性という意味も込められている。
ルックを彩るのは、ジップで切り裂いたジーンズやチェックシャツ、スカルモチーフのTシャツ、ボンテージベルトを施したワンピースなど、パンクの定番要素を詰め込んだハードなスタイル。合わせるアクセサリーも、スパイク鋲のブレスレットや有刺鉄線風のチョーカーなど過激なチョイスだ。
そんな、不穏で反逆的なファッションをポップに中和しているのが、大小さまざまな“花”のモチーフ。たとえば、白と黒のタイダイ染めワンピースには胸元にカラフルなフラワーモチーフをオン。一見パンクとは相容れないファンタジックな世界観を、あえて融合させているのが面白い。
ルックの後半に入ると、より遊び心のあるマッドな柄使いが目立つように。ぐるぐると渦巻くマーブル模様のオールインワンに、同じくマーブル模様のジャンパーを重ねたコーディネートは、見ているだけで錯覚を起こしそうなスタイル。グリーンとオレンジの鮮やかなコントラストも、サイケデリックな雰囲気を一層引き立てている。