トム ブラウン(THOM BROWNE)の2023年春夏メンズコレクションが発表された。
今季のトム ブラウンの軸となるのが、ツイード素材である。グリーンやイエロー、ブルー、ピンクなど、明るく鮮やかな色彩に彩られたプーフツイード。いわゆる「フェミニン」で柔らかな雰囲気を漂わせるこのクラシカルなファブリックを用いて、トム ブラウンらしい屈強なテーラリングへと昇華してゆく。
ウェアの基調となるのは、テーラリングであり、あるいはカウボーイ、サーファー、船乗り、テニスプレーヤーといったスポーティなスタイルである。とりわけテーラリングは、シングルブレストジャケットを中心に、ロングコートやジレなど、いずれも力強いフォルムで仕立てられている。
一方で、スポーティなテイストに由来するウェアは、ツイードというクラシカルな素材を用いることで、アクティブな印象を程よく払拭した表情を獲得している。ショートな丈感のパンツやインサーションを施したスカートなど、屈強なテーラリングに対してその足取りは軽やかだ。
先に、ツイードに「フェミニン」の形容を用いたが、しかし厚みのあるツイードは伝統的には主に男性服に用いられる素材であった。それを女性服に採用したのが、たとえばガブリエル・シャネルであり、これをストレートなラインの柔らかなスーツに仕立てたのだった。今季のトム ブラウンでは、そのクラシカルな華やぎはそのままに、いわゆる「マスキュリン」なテーラリングへとあらためて変換されているといえる。ここではツイードの記号学が問題となっている。
記号学、つまり差異表示の構造という点で付け加えるならば、身体の露出がエロティックたりうるのは、衣服との関係裡においてである。それならば屈強なテーラリングに対して、ボトムにはジョックストラップパンツを広く採用することで、身体の部分的な露出を際立てているといえる。