ベッドフォード(BED j.w. FORD)の2023年春夏コレクションが発表された。
今季のベッドフォードがテーマとしたのは、大文字の「SYMBOL」、すなわち「象徴(symbol)」が含みうる意味の広がりを表すという点で、〈象徴〉と書いてもよいだろう。記号と呼べるものが、たとえば「イコン」が類似性によって、「インデックス」が物理的・直接的に、それぞれ対象を示すのならば、「象徴」とは人びとのあいだで共有される何らかの体系に基づいて事物を指し示すものであった。だから、象徴の体系が異なれば、見た目には同じ記号であっても異なる意味を示しうる。かくして〈象徴〉は、意味の広がりを有することになる。
〈象徴〉の意味の転位を軽やかに示すのが、林檎のモチーフだろう。さまざまな文化圏でそれぞれに異なる意味を持つ林檎を、それをかたどって中をくり抜くようにカットアウトし、テーラードジャケットやジレ、ブーツカットパンツなどにあしらっている。ジャケットなどでは、その下のレイヤーのファブリックが林檎の形を示すことになるが、一方パンツでは素肌を示すホールにほかならず、いわば不在でもって林檎のイメージを浮かび上がらせている。
こうした林檎のモチーフや、随所に用いられる流星のボタンのように、〈象徴〉の転位は戯れのようにあくまで軽妙だ。それでも全体として流麗な印象を与えるのは、セットインショルダーで端正に仕立てたテーラードジャケットや、流れるようなシルエットのブーツカットパンツ、上品に落ちてゆくロングシャツなど、ベッドフォードならではのフォルム作りのゆえだろう。
概してモチーフという細部においてなされる〈象徴〉の戯れは、しかし、だからといって単にささやかな存在であるわけではなかろう。たとえば西欧の服飾史をひもとけば、12世紀、服装が社会的地位を示すものであったものの、奢侈禁止令の力が及ばなくなりつつある時代にあって、さまざまな色の縞や記号を組み合わせた紋章が生みだされ、衣服にあしらわれるようになった。ごく小さな要素がアイデンティティを示すという紋章の象徴的役割が、本コレクションにも反映されているといえる。
あるブランドを「象徴する」と言い表されるアイテムもまた、〈象徴〉の広がりの内部にある。それはたとえば、シャネルジャケット。ファンシーツイードを用い、ストレートなラインのボックスシルエットに仕上げたこのジャケットは、元々男性服に用いられていたツイードを女性服へと転換させたものだった。ベッドフォードはこの象徴の体系をさらに戯れ、ノーカラージャケットをはじめ、ややリラクシングなシルエットのシングルブレストジャケットや、軽やかなショートパンツへと仕上げた。