貴金属を用いず、メタルやガラスなどで作られた「コスチュームジュエリー」。20世紀初頭にファッションへと取り入れられたコスチュームジュエリーは、パリ・モードで欠くことのできない要素となり、アメリカでも人気を集めた。その展開を紹介する展覧会「コスチュームジュエリー 美の変革者たち シャネル、スキャパレッリ、ディオール 小瀧千佐子コレクションより」が、東京のパナソニック汐留美術館にて、2023年10月7日(土)から12月17日(日)まで開催される。
コスチュームジュエリーとは、宝石や貴金属を使わずに、メタルやガラス、半貴石といった多種多様な素材で作られたアクセサリーだ。従来、模造宝石を使った装飾は、オペラやバレエの舞台衣装に用いられてきたものの、その華やかな効果を舞台以外の装いに取り入れたのが、フランスのデザイナー、ポール・ポワレであるとされている。
こうして20世紀初頭、オートクチュールで用いられるようになったコスチュームジュエリーは、ガブリエル・シャネルによって広く普及。伝統的なジュエリーが、貴重な宝石や貴金属を贅沢に使って富を象徴したこととは対照的に、衣服との相性を重視したコスチュームジュエリーは、やがてヨーロッパからアメリカへと広まり、華やかに展開してゆくこととなった。
「コスチュームジュエリー 美の変革者たち シャネル、スキャパレッリ、ディオール 小瀧千佐子コレクションより」は、コスチュームジュエリーの歴史を包括的に紹介する、日本初の展覧会。約400点の作例を全3章構成で紹介し、その展開をたどってゆく。
コスチュームジュエリーは、3つに大別することができる。オートクチュール用にデザインされたアクセサリー、プレタポルテ用のもの、そして大量生産され、広く一般向けに作られたアクセサリーだ。第1章では、このうちオートクチュール用のコスチュームジュエリーに光をあて、シャネルやスキャパレリ、クリスチャン ディオールなどの作例を紹介する。
コスチュームジュエリーを浸透させたのが、ガブリエル・シャネルだ。シャネルは、「リトル・ブラック・ドレス」や「シャネル・スーツ」など、シンプルで洗練されたデザインと着用時の実用性を備える、女性服の新しいスタイルを提案している。そしてコスチュームジュエリーにおいても、「富を誇示する」というファインジュエリーの常識にとらわれないデザインを手がけたのだった。
たとえば、模造パール。1926年に発表された「リトル・ブラック・ドレス」に代表されるように、シャネルは喪の色と捉えられていた「黒」にエレガントさを見出し、ブラックでまとめた衣服を手がけている。ここに華やぎを添えるのが、パールの上品な輝きだ。シャネルは、本物と見紛うほどの艶を持つ模造パールを使ってネックレスを作り、それを幾連にも連ねたのだった。
この模造パールを開発したのが、19世紀末からの歴史をもつコスチュームジュエリーのメーカー「メゾン・グリポワ」のシュザンヌ・グリポワダである。シュザンヌは、1930年代になると、細い真鍮線の枠に溶けたガラスを流し込む技法を取り入れ、葉や花を表現している。会場では、シュザンヌがこうしてシャネルのために手がけた、ネックレスやブローチを目にすることができる。
一方、エルザ・スキャパレリは、シュルレアリスムなどを装いに取り入れ、サルバトール・ダリといった当時の芸術家と交流を持つなど、美術と関わりの深いデザイナーであった。そうしたスキャパレリは、コスチュームジュエリーに美術の要素を取り入れている。
その一例が、1937年の「パガン・コレクション」だ。サンドロ・ボッティチェッリの作品に着想を得たこのコレクションでは、オークの葉、草花、海の生き物や昆虫をモチーフとして取り入れることで、スーツに華やぎをもたらしている。展示では、メタルで葉を表したネックレスをはじめ、自然のモチーフを取り入れたユニークな造形にふれることができる。
さらに第1章では、花冠を彷彿とさせる「バー」スーツなど、優美なスタイルを戦後に発表したクリスチャン ディオールをはじめ、イヴ・サンローラン、ジバンシィ、バレンシアガ、そして20世紀半ばにディオールらとともにオートクチュール界で大きな影響力を持ったジャック・ファットによるコスチュームジュエリーを目にすることができる。
1920〜50年代にかけてヨーロッパで花開いたジュエリーは、卓越した職人や製造業者の手によって生みだされていた。シャネルやクリスチャン ディオールなどに携わったメゾン・グリポワは、このように優れた職人を数多く擁するアトリエのひとつであった。第2章では、長い宝飾文化の歴史のなかで独自のスタイルを確立した、ヨーロッパのコスチュームジュエリーを紹介する。