ディースクエアード(DSQUARED2)の2025年春夏メンズ&ウィメンズコレクションが、2024年6月14日(金)、イタリアのミラノにて発表された。
薄くまた半透明、ほどよい弾力を持っていて、伸ばせば艶かしい光沢をかすかに帯びる。人工物であるにもかからわず、身体にぴたりと張り付いて、ほとんど皮膚のようでもある──ラテックスだ。Tシャツやタンクトップ、ワークジャケット、トレンチコートなど、今季のディースクエアードが数多く用いたこのラテックスは、このように、衣服でありながら裸体のようであり、また身体を覆っていながらその下層を透かして見せる、いわば「多重性」を体現する素材である。
多重性、あるいは複数性──英語ならばmultiplicityとなる──とは、いろいろなものがある、というよりも、ひとつのものが多重的に、複数的に構成されている、ということだ。この複数性こそ、今季のディースクエアードが改めて目を向けたコンセプトである。何より多重性とは、ある対象のアイデンティティを一義的に決定することに否を突きつける、自由さにほかならないのだから。
こうして今季のディースクエアードは、基底にあるグランジテイストを響かせつつ、そこにエレガントな、フェティッシュな、あるいはスポーティな要素を交えつつ、官能的な表情を織りなしてゆく。エレガンスはたとえば、シフォンが波打つドレスに体現されているものの、トップを大きく、アシンメトリックにむき出しにし、素肌と衣服の緊張を高めることで、身体が持つ官能性を引き立てていることが見て取れる。
いま一度、冒頭にふれたラテックスに戻るのならば、この素材自体、皮膚のようでありながら皮膚ではないという意味で、フェティッシュの特権的な対象である。そのうえ、ラテックスのトップスやシアー素材のシャツの下には、ハーネスあが、あるいはランジェリーを透かして見せることで、フェティッシュの意味合いを重ねて高めているといえるだろう。ある種倒錯を含んだフェティッシュが、ここでは自由さに読み替えられているのだ。
このように今季のディースクエアードでは、素材やカラーを脱臼することで、そこに多重的な意味合いをもたらしている。最初に引いたトレンチコートは、ラテックスを用いることで、クラシカルさを拭い去る。デニムパンツは、バックを裂いてラテックスを重ねることで裸形と被覆のあわいに揺らぐ。あるいはシャツも、シアー素材によって上品さをぐらつかせる。そしてそこでは常に、身体がそれ自体持つ官能性が、力強く引き立てられているといえるだろう。