ターク(TAAKK)の2025年春夏コレクションが、2024年6月23日(日)、フランスのパリにて発表された。
タークが今季テーマとした言葉が、「yo-huku(洋服)」だ。多くの日本人が普段着ているのが、洋服である。日本で洋服が着用されるようになったのが、近代化を推し進めた明治時代のこと──もちろん、一般の人々への浸透はもっと後のことであるし、ジェンダーによっても受容に差があった──。それも、欧米諸国に比肩すべく、西欧の装いを取り入れたのであった。
日本語でいう「洋服」とはいわば、このような歴史的事情からしても、そもそも「借り物」であるといえるかもしれない。こうして日本に取り入れられ、人々に浸透し、さまざまに作られてきた「洋服」とは、だからそれでもなお、ヨーロッパに憧れ、に追随するものに留まっているのではないだろうか? そして、「洋服」の領域で先人たちが切り拓いたものは、今へと継承されきれていないのではないか?──それが、タークのデザイナー森川拓野が考えたことであった。
タークは、日本人が作る服を信じて、作るべきものを作るのだと森川は語る。今季はだから、タークがこれまでに追求してきた素材の繊細さ、それらが生みだすシルエットの力強さを、どこまでも研ぎ澄ませて表現しようと試みているように思われる。
タークが継続的に探ってきたのが、刺繍の表現だ。緻密に模様を織りなすうえに、製作に労力を要する刺繍は、ヨーロッパでは伝統的に、装飾の粋として捉えられてきたと言ってよい。しかしタークにおいて刺繍は、ファブリックという平面を華やがせるのではなく、もっと積極的に衣服の形に働きかける。ダブルブレストジャケットやロングコートなど、テープ状のファブリックによって刺繍を行うことで、力強い造形を生みだすのだ。
タークを代表する技法のひとつが、ある素材から別の素材へ、あるアイテムから別のアイテムへ、階調を織りなしつつ変化するものである。今季はたとえば、ショルダーからヘムにかけて、シアーなシャツからソリッドなテーラードジャケットへ、あるいは構築的なテーラリングやステンカラーコートから軽やかなファブリックへと移ろっている。このように、シルエットの構築性とファブリックの軽快さを連続的に架橋することで、風に揺らめく繊細なダイナミズムを獲得するのである。
このジャケットに見られるように、透け感とは、素材が示しうる繊細な表情の豊かさを、極限まで引き出すことができる場であると言えるかもしれない。実際、タークは、メッシュに肉厚なプリントをのせたり、刺繍を施したりするほか、バロック装飾を思わせる華麗な模様を施したシアー素材などを、シャツやパンツなどに取り入れている。素材の繊細さが力強い表情を織りなす、この逆説的な跳躍こそ、タークの造形性を特徴付けるのだといえるかもしれない。