アンリアレイジ(ANREALAGE)が2014年9月23日(火)に、2015年春夏コレクションをパリで発表した。10年間に渡り東京を拠点に活動し続けてきたブランドが、初めて舞台をパリに移しショーを開催。17世紀、パリに設立され350年以上の歴史を持つ、フランスで権威ある美術学校「Beaux-Arts Salle Melpomene(ボザール メルポメーヌ)」がその舞台に選ばれた。
デビューコレクションの演出はこれまで通り金子繁孝が行い、映像・プログラミングはライゾマティクスの真鍋大度が担当する。今季のタイトルは「SHADOW(邦題:光)」。
「ピー、ピー……」というデジタル音が小さく鳴り響き、コレクションは静かに幕を開けた。ランウェイの奥からは2名のモデルが、それぞれモノトーンのテーラードジャケット、プリーツスカートを身に着けて登場。頭には加茂克也が手掛けるショートヘアのヘッドピースをまとっている。
「通常、光は後方向から当たると斜め(アシンメトリー)になるので、その影をそのまま形にしました」とデザイナーの森永邦彦が語る通り、前半はアシンメトリーなデザインの服が数多く登場。ジャケット、プリーツスカート、レースのトレンチコート、ライダースジャケット、ニットトップス、ワンピースなどすべてのアイテムが左斜め下に黒い生地が伸びている。テーマを物語る要素は、至るところに見られ、ヒールパンプスの下に影のようなソールがあったり、ポーターとのコラボレーションと見られるクラッチバッグも斜めに伸びていたりと、目を凝らすとそのアイディアは隅々まで表現。小さなスタッズやパールでさえ、影をまとったデザインがなされているという。
そして、誰もが注目したであろうランウェイ中央に設置された円型のスポットライト。今回はどんな演出を見せてくれるのだろうと、緊張感と期待感が入り混じる空気が流れていた。そして中盤にやってきた2名のモデルは、真っ白なワンピースとトレンチコートをまとい、ライトの中央に立ち腰に手を当てポーズをとる。しばしの沈黙を終え、歩き出したモデルたちの姿を見ると、なんと服はうっすらとグレーに彩られ手型がくっきりと残っているのだ。日本メディアはもちろん、初めて目の当たりにするアンリアレイジの演出に海外メディアも興味深げな表情を見せる。
ちなみに今回のパフォーマンスは、特殊な染料を服に塗ることで、紫外線に反応し光が当たった部分だけ色が変わるという仕掛けが隠されている。その後も丁寧にカットワークされたレザージャケットを白い服の上にまとってライトにあたり、それを脱いで模様のように見せるなど変化を愉しめるショーの展開は続く。
途中で音楽が静まり、クライマックスがやってきた。モデルたちは先ほどと同じようにライトの前に立つと、今度は青いライトがポツポツと灯り、真っ白な服の上を照らす。その光はどうやら動きながら何かを描いているらしく、しばらくすると手書きのパッチワーク模様が服をキャンバスに完成していた。そうして驚きの空気を残しながら、ラストは握手に包まれてアンリアレイジのパリコレ初舞台は幕を閉じた。
会場には応援にかけつけた、ホワイトマウンテニアリングの相澤陽介や、ケイスケカンダの神田恵介の姿があった。ショーを終えると、森永やスタッフたちが涙を浮かべる様子もあり、今回のコレクションにかける想いの強さを感じさせた。開催直前の6日間は「死ぬかと思いました」と森永。また「“黒の衝撃”というものに対して、最も黒の象徴でもある“影”を白くしたかったので、ずっとテーマはこれ(SHADOW)に決めていました」とショーへの想いを語った。80年代に活躍した日本人デザイナーたちによる「黒の衝撃」の歴史に、今回「白」という光の色で挑んだアンリアレイジ。本コレクションがパリでどんな反応を得るのか、そして今後どんな展開を見せていくのかが楽しみである。
<デザイナーの森永邦彦にインタビュー>
「影を白で消す」というアイディアは、どのようにして生まれたのでしょうか?
もともとは黒い象徴のものを探していて、他にもいろいろ考えてはいました。そこで半年ぐらい前に「影」という存在が気になり始め、もっとも身近なものだったので、まずそれをテーマに物づくりしようというのが自分の中に大きくありました。
その中で、影のもの自体をどう壊したり、転換したり、というアプローチは絶対必要でした。そして“影の黒を逆転させて白にしていこう”という所を目指すことになり、それはパリの一回目として相応しいと思いました。
もともとアンリアレイジは、「日常と非日常」というのが大きいテーマであり、その中で「影」は、ずっとやりたいシーズンテーマでした。何かすごく特別な気がしていて。「Unreal」の象徴というか、実態がない、虚像の象徴というか……。
ずーっと、いつかそのテーマを作ろうと考えていたんですけど、その想いが合致してきて、やはりここ(パリ)でやろうと思ったんです。
影絵のように浮き出る色のしくみを、教えて下さい。
素材全体に、光によって反応する感光紙のような、フォトクロミックという特殊な染めを施しています。影ができるということは、光がない部分ができるということなので、その部分は純粋に発色しません。洋服の襞の影とか、手で隠された部分とか、光が当たらない部分だけ、白のままで、それ以外に光が当たっている部分は、影のように色が変わっていくというものです。
色は時間が経つと、元に戻るのですか?
そうですね。3分ぐらい経つと。
特殊な染料は、協業されて作ったのでしょうか?
通常染料というものは、染める訳なんですけども、今回はその染料自体を作らなければなりませんでした。そこで、まったく染料とは違う会社にアプローチをしました。ただその間に一社、特殊なインクを開発して下さる会社があります。そこは印刷屋さんです。
僕らは、その印刷屋さんと話をしました。本来、印刷業界と染色業界って全然違うものなのです。印刷業界って、今おもしろいことがたくさん起こってるので……。でも布が染められなかったり、布には使えなかったりという部分があるので、いろいろ汲んでやりました。
具体的に、どのようなことに試行錯誤したかを教えて下さい。
そもそも使用した染料自体が、黒になることが不可能なんですね。
細かい話になりますが、その染料は分子なんです。結局見ている色というのは、光の反射なので、白というのは光を全反射している分子になります。今までのフォトクロミックの技術は、その反射の角度を変えるという技術で、青だけ反射させたり、赤だけ反射させたりと、そういう微妙な角度の違いをもたらすものだったんですけれど。今回の黒は光を全吸収するので、紫外線をきっかけに変えるという、すごく難しいことに挑戦しました。でもそのインクの会社はそれにずっとチャレンジしてくれたんです。
舞台をパリに移すために、服のデザインに変化はありましたか?
具体的にサイズのことですとか、体型の違いとかがあるので、形に関して今までとは考え方を変えました。どちらかというと、うまく体に空間を作っていくような方向で、サイズ感として、今までよりレンジの広い幅をカバーできるものを中心にしました。
それであの“影”の伸びとか、理論づいたものに裏付けされて、形として落とし込まれていきました。
ショーを終えて、海外メディアからの反応はいかがでしたか?
演出について、メールを見ていると「Amazing」だとか「Fantasy」だとか、「Unbelievable」だとかいろいろな声をいただきました。