プラダ(PRADA)の2025年秋冬メンズコレクションが、2025年1月19日(日)、イタリアのミラノにて発表された。
ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズによるプラダには、理性のもと「発展」した文明を再考する、という視点が垣間見られるように思われる。それは、「UNBROKEN INSTINCTS」と題し、人間の本性や本能を追求したという、今季のメンズコレクションにも通底しているといえよう。それはつまり、理性のもとに抑圧されることなく、生のままに残存する本能である。
衣服において理性を象徴するものといえば、たちどころにテーラリングが想起される。テーラリングは、装飾性と色彩感を削ぎ落とし、曲線的なカッティングを駆使することで、身体に呼応する立体的なシルエットを純粋に構築する。あたかも理想的な身体を思い描くテーラリングは、まさに思考を衣服という物質へと具現化する、理性の運動の現れであるということができる。
事実、今季のプラダに、テーラリングを随所に認めることができる。シングルブレストやダブルブレストで仕上げられたこれらのジャケットやコートは、過度にタイトということはなく、シャープに直線を描くボクシーなシルエットで仕立てられている。素材に用いられるのは、ソリッドな質感を叶えるウールのファブリックばかりでない。ショールカラーコートは、軽やかな素材に鮮やかなマドラスチェックをのせる。さらに、なめらかなレザーや起毛感のあるスエードなど、いわば動物の表皮をそのまま纏うかのような生々しい身振りもまた、テーラリングに見え隠れしている。
それはいわば、本能を反映するものだろう。それは、理性に回収しきれない欲動であると同時に、そこから理性が芽生える豊穣な土壌でもありうる。プラダはこうして、装うことに対する生々しい本能へと目を向ける。その一例が、身体をぴたりと覆う、タイトなフィット感である。とりわけ、トップスのニットやストレートラインのスラックスは、身体の表皮と漸近するかのようにスリムなシルエットにまとめられている。さらに、随所に見られる大ぶりなフードも、身体を包みこむという欲動の現れでなくて何であろう。
本能が、理性の意識を通して制御できないのならば、それは無意識的な身振りにほかなるまい。装いの本能を示す直接的な例が、シアリングであろう。ロングコートやダウンジャケットの首周り、フード、ベストなどには、身を包むかのようにシアリングを取り入れている。時にアシンメトリックであり、縁も波打つそのシアリングからは、野生の息吹をもかすかに感じられる。そして、時にベストやジャケットは、シアリングやレザーのパッチワークで仕上げるなど、自然の物を巧みに用いるブリコラージュ的な身振りもまた、垣間見られよう。
このように装いには、身体、ひいては自身を取り囲んで外界から遮る、境界に対する本能を見て取ることができる。それは必ずしも身体をすっかり覆う必要はなくて、場合によってはごく小さなディテールとして現れることもある。いわば、祈りに譬えることもできるだろう。タイトなニットには、メタルのチャームやスタッズがきらめく。そこには、身を外界から隔てる祈りが仮託されているということができよう。むろん祈りとは、理性とは相反するものである。しかしプラダにおいては、理性の中にあってなおも残存する装いの本能が、緊張感を湛えた佇まいに析出されているといえるだろう。