写真と短編イメージビデオによるワイスリー(Y-3)2012年春夏のキャンペーン「The Precipice(ザ・プレシピス、断崖絶壁)」が公開された。監督は先シーズンに引き続き、コンテンポラリーアート界で高い評価を受けているコリエール・ショア。
1987年に世界遺産登録がなされたブラジルの首都ブラジリアにインスパイアされたという「The Precipice(ザ・プレシピス、断崖絶壁)」。これはショアが創り出した架空の旅行記で、20世紀のモダニズム建築が立ち並ぶブラジリアのドラマティックな光景へと見る者を誘い込む。そして舞台となるブラジリアへの街中にそびえ立つコンクリートの建築群は、まるで未来文明の遺跡が出土したかのよう。
並行して制作されたイメージフィルムでは、女性ナレーターが自分を取り巻くものの表面の暖かさや、それらとつながることに対する恐れと願望について語りかける。その声とともに、都市はただのコンクリートのビルやトンネルや道路の集合体ではなく、ひとつの生命体のように見えてくる。見る者は冒頭から劇中劇の中へ導かれ、俳優たちの背後と身体に直に投影された風景の中に引き込まれていく。さらに、フィールド録音や古いSF映画やウィリアム・バシンスキー作の『ディスインテグレーション・ループ』の抜粋という多様な音源をミックスしたサウンドトラックが、作品の重厚な雰囲気を醸し出す。
ショアはこの作品についてこう述べる。「山本耀司氏のデザインが持つアンドロジニーに触発されて、彼の服の二面性をスクリーンとイメージに置き換えて表現しました。2012年春夏広告キャンペーンではモダニズムの文学と建築に着想を得て、多数の効果を使って遊んでみました。モダニズム建築は、それ自体が政治的スローガンと建築学的スローガンの融合であり、空想的であると同時に具象的です」
今作品は、人類が生み出した進歩と同時にもたらされる違和感、そして人間とその環境を結ぶ絆に対する不安感を、ショアの視点で詩的に描き出した大変興味深い作品となっている。
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