イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)から、「FLORIOGRAPHY(花言葉)」をテーマにしたクリスマス限定の花のコサージュとイヤリングが登場。
間近に迫るホリデーシーズンに向けて、イッセイ ミヤケが提案する“贈り物”。それは、花束と手紙をイメージしたアイテムだ。花のコサージュやイヤリングを正方形のメッセージカードで包み込むことで、花束を模した可憐なギフトに仕上げた。
メッセージカードとなる包み紙には「DO YOU REMEMBER?」「WARMTH」「SUNSET」「COFFEE」といった短い言葉が刻まれており、花束にして光にかざすと透けた文字が綺麗に浮かぶ。好きな言葉を丸で囲んだり、小さく取られたスペースに自由に書き込んだりして大切な人への思いを綴ることができる。
花に見立てたコサージュやイヤリングは、イッセイ ミヤケを代表する素材のひとつである「スチームストレッチ(Steam Stretch)」を使用している。凛とした佇まいで咲き誇る花の種類には、正方形の生地がスチームの熱によって縮み生まれた、立体的な4パターンのフォルムを用意。カラーはピンク、シルバー、ゴールドと、ゴージャスながらもシックな色合いで耳や胸もとを鮮やかに彩る。
この花のコサージュやイヤリングを製作するにあたって、デザイナーである宮前義之をはじめとするイッセイ ミヤケのデザインチームは、Takramのコンテクストデザイナー/パートナーである渡邉康太郎を迎えた。「ものづくりとものがたりの両立」をテーマにこれまで数多くの商品に関わってきた彼が加わったことで、この花はある大きな意味を纏った。2人に今回のプロジェクトを振り返ってもらう。
スチームストレッチの特徴を教えてください。
宮前:スチームストレッチによるプリーツは、放射線状や曲線といったこれまでのプリーツになかった自由なデザインを出せるだけでなく、布に記憶させたプリーツが洗濯しても変化せず、長期間着てもプリーツがとれないように開発をしています。
種から育てた、イッセイ ミヤケにしかないプリーツ。同ブランドが提案するのは、レッドカーペットで一夜だけ着る特別なドレスではなくて「日常の服」ですから、そのコンセプトにもぴったりな素材です。
ブランドらしさの詰まった素材なんですね。
宮前:そうです。これまでスチームストレッチを使ったコレクションを何度も発表してきて、今ようやく服で一通りいろんな可能性を見せることができました。だから、服以外のプロダクトを作ってもいいなと思って。スチームストレッチの可能性をもっと探りたかったんです。それが「FLORIOGRAPHY(花言葉)」に繋がります。
今回は、クリスマスに向けて発売するものだから何か特別なことをしたい。社内の人間だけじゃなくて、最初のストーリーを紡ぎ出すところから一緒にできたらと考えて、渡邉さんにお願いしようと思いました。
なぜモチーフとして、花を選んだのでしょうか。
宮前:素材の持つ面白さを伝えたいということも企画の発端のひとつだったので、テキスタイルを知らない女性にも、純粋に素敵だと言ってもらえるモノを作りたかったんです。モチーフを決める前、最初に、(アイデアを集めるため)試作のような生地をボックスにいっぱい入れて、渡邉さんにお渡ししました。
渡邉:宮前さんからこのプロジェクトのお話をいただいたのはちょうどゴールデンウィークの前でした。お休み中、僕はその生地を1、2個ポケットに入れて持ち歩いて、ふとした時にたまに眺めていました。すると、だんだん、幼虫みたいだなとか、食べ物みたいだなとか、花みたいだなとか、いろんなものに思えてきたんです。
その後、モチーフとして思いついたのは、花の他にもパスタと古代生物がありました。パスタで試作してみたのですが…。スチームストレッチは熱を加えると縮む素材なので、もちろんお湯に入れても縮むんです。お湯につけてカップから取り出した瞬間「わー!縮んだ!」という感動はあるものの取り出すと水がボトボトと滴って(笑)。
宮前:滴る水を切って、干して置く時間も所作も、なんだか美しくないですしね。あとは家でアイロンかけてもらうというアイデアも浮かびましたが、アイロンのない家だってあるだろうし、やけどしたらどうしようという懸念もありました。
最終的に花にしようと決めたのはなぜですか。
宮前:「一枚の布」から作るというイッセイ ミヤケの哲学をもとに考えると、花は表現しがいがあるなと。世の中にコサージュはたくさんあるけど、僕たちはツギハギをしない一枚の布で作りたかった。このシンプルな形状から花が生まれるという物語があれば、より深さが出るという風にも考えました。
服同様に「一枚の布」というアイデアから、このコサージュも生まれているんですね。
渡邉:「一枚の布」で作るという必然性を考えたときに、これは架空の花なんだと決めた方が面白いと思ったんですよね。
最初は、宮前さんチームが生地で作ってくれた何十通りかの花があって、それぞれが自然界のどの花に似ているかを話し合っていました。でも、実在する具体的な花になぞらえようとすると、やっぱり正確な造形ではない。本当に似せるなら何枚かの布で精巧に作るべきだとも考えて。
花に対応する詩や歌という話が出てきましたが、「FLORIOGRAPHY」には、アクセサリーと共にメッセージを贈れるラッピングペーパーが付いていますよね。
宮前:このプロジェクトでは、メッセージ性が大事だと思っていて。別に商品をたくさん売りたいという考えが先にあったわけじゃない。クリスマスだから僕たちが日ごろ支えてもらっているお客さんに感謝の気持ちを伝えられたらいいねという思いもあり、今回はただの“モノ”じゃないものを作りたかったんです。
ラッピングペーパーのアイデアはどこから生まれたのですか。
渡邉:「FLORIOGRAPHY」はまず花のコサージュが中心にあって、それを花束に見立てるラッピングペーパーもある。開くと、贈り手からのメッセージが出てきます。たくさんの「もの」で成り立っていますが、大事なのは、もの自体よりも、これを「人に贈る」という行為。それから誰かに宛てて「メッセージを書く」という行為です。
花というモチーフを提案した時から「花言葉」をテーマに据えたいと考えていました。当初はバラやシャクナゲなど、実在の花の花言葉に重ねるとか、古今東西の花にまつわる詩歌と寄り添わせる、という案も。でもギフトなので、やっぱり贈り手本人にメッセージを書いてもらいたい。するとメッセージカードが必要です。
小さなメッセージカードをつくって花に添えるよりも、ラッピングペーパーをメッセージカードと兼ねてしまったらどうだろう、と考えました。すると、手書きのメッセージが、架空の花の「花言葉」になる。贈り手の数だけ思い思いの花言葉が生まれます。
きっかけとして、「DO YOU REMEMBER?」、「WARMTH」、「SUNSET」といった短い言葉がカードにエンボスしてあります。気になる言葉を選んだりして、メッセージを書き始められます。
自分の気持ちに合う言葉をマルで掴んで想いを伝える、新しい発想ですね。
渡邉:長い手紙を突然書くというのは、きっとハードルが高い。今の時代、SNSならまだしも、手紙をたくさん書いている人なんて少数派。LINEでも、文字とともにスタンプが行間を埋めてくれたりしていますよね。ひとつの言葉が明るくも暗くも見える時、行間に手を差し伸べてくれる「何か」があったほうが、手紙を書くことが楽になると第一に思ったんです。
具体的にどのような使い方をしてほしいというのはありますか。
渡邉:実は、すでにこの花を贈った方からたくさんの素敵なエピソードを聞いています。印象的だったものを紹介します。ひとつは、友達以上、恋人未満の関係のカップルが青山店を訪れたときのこと。
彼らは、「FLORIOGRAPHY」にとても興味を持ってくれていました。すると、彼が「これがきっと似合うからプレゼントするよ。でも、手紙を書かなきゃいけないから、ちょっとだけ待ってくれる?」と言って、手紙を書き始めたんです。彼は店内のテーブルで、白紙の紙を見ながらずーっと頭をかかえていて。彼女はというと、お店の外に出て、暗くて寒い中ずっと待っていました。でもなぜか彼女も手紙を書いているような、優しさに満ちた顔をしていました。
2人で来たのに彼女に外で待ってもらうという、ぎこちない恋の始まりみたいな雰囲気が、本当に素敵だと思いました。