この作品は、主に4人のみの登場人物で構成されています。それは意識的に設定したことなのでしょうか?
はい。これまで大勢のドラマを描こうと思って取り組んでいましたが、今回はもっと1人の中にある色んな一面をみせたいなと思い、登場人物の数を思い切ってギュッと絞りました。
考えてみると、サスペンス映画の『フレンジー』や恋愛映画の『ゴースト/ニューヨークの幻』といった名作も、実は3~4人しかでてこないほどシンプルな構成ですよね。それくらいの方が、キャラクター同士の関係性やストーリーの流れがクリアになって、観客の皆さんが感情を追いやすいのかもしれないなって。
確かに、4人の個性溢れるキャラクター像を掴むことが出来ました。同時に、全員不器用な性格にも感じたのですが…
そう、彼らの性格はてんでバラバラだけれど、全員どこか自信に欠けたキャラクターに敢えて設定しました。一見そうは見えないんですけどね。
ヒロインのサーファーは、特にイケイケなイメージがあるので意外でした(笑)
だからこそ、一見悩みとは無縁に見えるような人気者にも、他の人たちと同じ様に色んな悩みを抱えながら生きていることを描いてみたかった。
これは、僕が大人になるまで気付かなかった事実でもあるのだけれど、「俺もアイツになれたらな~」と羨むような人に限って、実は僕には分からないような悩みがあったり、自信に欠けていたりすることもありますよね。
映画『桐島、部活やめるってよ』もそんなストーリーでした。こんな人気者にも悩みがあったのか!と、改めて気付かされるというか。皆それぞれ心の中で色んな葛藤を抱えながら生きているのだなと。
そして僕自身、ヒーローでもない普通の人たちから元気づけられたり、勇気づけられたりもしてきたんですよ。“こんなに誠実に生きている人がいるんだから、自分も頑張らなきゃ”って。
そんな監督の気持ちをストーリーに反映させている?
政治家とか、大きな力やに地位を持った人でなくても、きっとこの厳しい世の中で真面目に生きてさえいれば、絶対に誰かがその頑張りをみていてくれるはず。きっと“誰もが、誰かにとってのヒーロー”であると思うんです。
だからこの物語は、4人という小さな世界ではあるけれど、“互いが互いのヒーロー”であるという構図に仕上げました。これは僕が作品を通して伝えたいメッセージの1つであるし、この作品を観て、少しでも多くの人がもっと気持ちよく“人生の波”にのることができたらなと思っています。
かつて『ちびまる子ちゃん』『クレヨンしんちゃん』といった国民的アニメのアニメーターとして活躍していた経験を持つ湯浅監督。続いて、そんなアニメーター時代から一転、監督業への世界へと足を踏み入れた背景やその仕事観について話しを伺った。
アニメーションの世界に興味を持った背景を教えて下さい。
もともと小さい頃から、アニメーションが好きでした。現実世界の面白いところを要約して映像にしているというのが、子供ながらに魅力を感じていて。自分はアニメーターとして生きていくんだ、という気持ちが幼い頃から芽生えていました。
実際にこの世界に入られてからはいかがでしたか?
自分には、アニメーターの道しかないと思っていたのに、実際は描きたい絵を全く描くことができなくて、自分の才能の無さに何度も落ち込みました。一時期は、仕事をきっぱりとやめて田舎に帰ろうと真剣に考えていたほどです。
アニメーターとして高い評価を得ていたはずなのに、どうしてそこまで自信が持てなかったのでしょう?
自分の描いたものに対して、どうしても納得することが出来なかったんですよね。“何かが違う”って。だから周りの皆は褒めてくれていたけど、その言葉を信用することができなくて、“俺はダメだ!”って自暴自棄になっていました。(笑)
そんなアニメーター時代から一転、監督デビューしたきっかけは?
アニメーターとしての自分の腕に自信がない時、絵コンテの案を求められたことがあったんです。そしてその自分の原案をうまくまとめていただいて、ちゃんと映画のシーンが出来上がった。
その完成した映像を初めて映画館で観た時、カメラや背景、キャラクターの動きが、自分の思い通りに動いていて、そしてそれを観て喜んでくれている観客の人がいて。僕にとっては、まさに夢のような瞬間でした。本当に頭から変な汁が出てくるくらい“気持ちいいー!”って(笑)
この世界に入って、初めて誰かの誉め言葉を素直に受け取ることが出来た自分もいたし、その後監督を任せてみようと言ってくれた方がいたことで、監督の仕事をすることになりました。それが監督業へと踏み出す第一歩となったのです。
※アニメーター
アニメーションの制作工程において、作画工程のレイアウト、原画、動画などに携わる人全般を指す。
※絵コンテ
映像作品において、撮影前に用意される映像作品の設計図といえるもの。カットごとのおおまかな構図や動き、セリフ等をイラストとともに記入している。
監督業を務める上で、アニメーターとしての経験はどんなところで生かされていますか?
僕がアニメーターの時に、その当時の監督が僕のアイディアを積極的に作品に取り入れてくれて、すごく楽しかった経験があるので、僕自身も僕の下で働いてくれているクリエイターたちの個性を最大限に引き出そうと心がけています。その人にしか描けない絵って、きっとあるはずだし、もし失敗したとしても、フォローしてあげれば絶対になんとかなるから(笑)
最後には成功するという自信があるんですね。
そうかもしれない。よく僕の作品は“実験的に作ってる”なんて批評されるんですけど、成功してるから出しているんで(笑)いつも最終的にはうまくできる、ていう自信があるから挑戦してみるんだと思います。
もちろん制作にはハプニングがつきものだけれど、それを“一体どうやって乗り越えるのか?”と考えるのも、この役職の醍醐味。最終的に、やっぱり僕は感動を届けたいから、どんなに紆余曲折あったとしても、良い作品には着地させたい。その為にも、クリエイターたちにはゴールまで最大限の協力を仰いでいます。
お1人で、クリエイター勢を纏めていくのですね。
はい。そう考えると、監督業というのは、交通整理と似ているかもしれないですね。脚本家、アニメーター、音楽担当…と、多岐の分野に渡るクリエイターたちを、“こっちの道の方がいいぞ”って、作品が成功する方向に導いてあげる仕事だから。もちろんそれは、すごく責任をもってやらなければいけないことだけれど、だからこそ僕は楽しさを見出しているのです。
物語を彩る個性豊かなキャラクター達を紹介。GENERATIONS from EXILE TRIBEの片寄涼太や、『嘘を愛する女』『センセイ君主』に出演した川栄李奈など、豪華声優勢も合わせてチェックしてほしい。