ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)の2021年春夏メンズ・ウィメンズコレクションが発表された。
ニュージーランド出身のアーティスト、レン・ライ(Len Lye)は、芸術作品のなかにおける“動き”を追求した先駆的存在とされる。1920年代から40年代にかけてライは、フィルムに直接描く・スクラッチでモチーフをつける手法による実験的な映画作品やキネティックアートを制作した。今季のドリス ヴァン ノッテンはレン・ライをテーマに、鮮やかな色彩のコントラストと動きに満ちたフォルムによって、鮮烈な目眩と陶酔へと誘う。
薄く繊細なオーガンザで仕立てられたドレスは、軽やかに布地をはためかせ、衣服が示す“動き”をもっとも直接的に、生気に溢れたかたちで捉えている。一方で、豊かにあしらわれたラッフルは身体の上をうねるように走り、鮮やかに階調をなす色彩とともに、眩くばかりの華やかさでもって迫ってくる。
レッドやグリーン、イエローといった鮮烈な色彩は、グラデーションやぶれなどを駆使しつつ、表情豊かにコレクションを彩っている。闇夜に鮮烈なスポットライトを当てたかのような円形は、ウエストから裾にかけて広がるドレスなどにのせられ、地のブラックとともに目眩の感覚を誘うかのような激しいコントラストを織りなす。
また、バルーンスリーブのシャツに見るような、オプ・アートを彷彿とさせる歪んだストライプパターン、あるいはしなやかなラインを描くトレンチコートにのせた色とりどりのライン模様など、柄自体にも力強く沸き立つような動きを感じられる。
他方で、ジャケットやショートパンツなどに見るように、シルバーやゴールドといったメタリックカラーも随所に用いられ、鮮烈な色彩にはとどまらない力強いきらめきをもたらしている。金属的なきらめきに引きつけるならば、ネックレスにも用いられているメタルリングを連ねることで構築したジレも、アクセサリーとウェアとの垣根を侵食するような独特の存在感を放っているといえよう。
メッシュ素材のウェアも目を惹く。大ぶりなメッシュを使ったドロップショルダーのプルオーバーなどは、ほかの衣服に重ねることで立体感を生み出してはいるが、その量感は極めて軽やかだ。ウエストをベルトで絞ったジャケットと合わせたメッシュのスカートも、存在感がありつつも意外な軽やかさを示しており、トップスの重量感と鮮やかなコントラストを織りなしている。
力強い色彩だけでなく、随所に現れる繊細な模様にも注目したい。ブラウスやトップスの刺繍や、レザーに施したレースを思わせるレーザーカットには、伝統的な手仕事とテクノロジーに支えられた技術、それらいずれに対しても固有の表情を見出す姿勢が見て取れる。
Photo: Viviane Sassen